日本人が描く往年のセブ建築

この記事をシェア

2019年10月1日

蝶谷正明(セブ日本人会)

『 Poblacion Houses in Cebu 』

今回紹介する『 Poblacion Houses in Cebu』は、英語で書かれた本です。文字を追うよりも大人向けの絵本だと思ってページを繰ってください。一種独特な世界に引き込まれます。スペイン、アメリカ植民地時代のセブを中心とした当時の富裕層の邸宅を筆者が炎天下、一軒一軒に足を運び、水彩画で記録した本です。
著者の山口潔子さんは米国カルフォルニア大学バークレー校で建築学を学び、京都大学で博士号を取得、香港中文大学で教鞭を取った才媛。セブのサンカルロス大学を拠点に当時の住宅を建築家としての科学的な視点と、水彩画家の感性が入り混じったセンスで描き上げています。  フィリピン各地に今でも残っているこの時代の典型的な住宅様式は1階がレンガまたは石造で倉庫や店舗、オフィス、2階には居住空間があり木造、入母屋造のトタン葺き。そして、貝を薄く剥いだカピスをガラス代わりにはめた引き窓は、まるで障子のようです。筆者も指摘していますが、日本家屋の影響を受けたのではないかと思われ、木造ゆえに親近感を我々日本人に与えてくれます。元々はフィリピンの伝統的な高床式の住宅建築だったのですが、西洋人の好みや生活様式に合わせて進化して行ったと考えられています。かつては全国に相当数が建てられたようですが、教会や役所とは違い、個人所有、一部木造、築100年以上、熱帯の気候等の条件などから朽ちていくままになっているケースが多いのは、本当に残念です。あと10年、20年したらなくなってしまうという危機感も彼女に筆を取らせた理由の一つであると聞きました。
セブでは今でもこうした建築に出会うことがありますが、当地の研究者や公的機関はほとんど関心を示していないというのが現実です。山口さんの作品では傾いたり、カピスが外れてしまったりした窓など老朽化した建物だけではなく、年老いた住人、遊び回る子供や犬の姿も生き生きと描かれています。専門家向けの無機質な資料としてではなく、フィリピンの温かさを感じる作品集です。

『 Poblacion Houses in Cebu : Philippine Urban Architecture in the American Colonial Period 』
山口 潔子 著
University of San Carlos Press
ISBN : 978-971-539-105-4

 

Advertisement