フィリピン語  アレ・コレ

第8回
「マノ・ポ」 Mano Po
(目上の人への挨拶)

 

 みなさん、こんにちは!Kumusta kayo? フィリピンの家庭を訪問すると、子供や若い人が「マノ・ポ!」と言いながら年配の人の右手を自分の右手で取り、頭を下げて手の甲を額にあてる様子を目にすることがあると思います。これは「マノ」とよばれる習慣で、年上の方に対する尊敬を示し、祝福をいただく意味があります。「マノ・ポ」の「ポ」は尊敬表現で、言葉や文章の後につけると丁寧な表現になります。「マノ」というのはスペイン語の「手」という意味ですから、「お手をお願いします」というのが「マノ・ポ」の本来の意味です。クリスマスや正月にも、ニノンやニナンと呼ばれる名付け親(多くの場合は親の友人や地域の有力者)に「マノ・ポ」をしに行く習慣があります。
フィリピン映画に「マノ・ポ」というタイトルのシリーズ作品があり、華僑の一族を中心にドラマが展開します。この中では「マノ・ポ」は中国系フィリピン人の習慣として描かれていますが、よく似た習慣はマレーシアやシンガポール、ブルネイや、遠くは中東のイスラム圏にも見られるそうですから、フィリピンがスペインの植民地となる以前に、そちらの方から入ってきた習慣が今でも残っており、上下関係を重んじる華僑の人たちにも浸透していったと考える方が自然でしょう。
この他、挨拶の時に頬にキスをしたり頬を寄せ合う「ベソベソ」という習慣もあります。「ベソ」というのはスペイン語のキスの意味で、年上の人に対してだけ行う「マノ」と違って年齢に関係ありません。伝統的に男性同士は「ベソベソ」はしませんが、親しい男性と女性間や、女性同士は、出会った時「ベソベソ」で挨拶して、また別れる時に「ベソベソ」で挨拶します。外国人である私たちも、こういう「ベソベソ」でフレンドリーに迎えられて、フィリピン人の暖かさに感動した人や、あるいは戸惑いを感じた人もおられるのではないでしょうか。
さて、「ベソベソ」はどっち側の頬で始めればいいのでしょうか。まず最初は右側で始めるのが正解です。普通は右手で握手をしてベソベソに入りますので、そのまま右側の頬が出ると思います。軽いハグからベソベソに入る場合もあるでしょう。右だけで終わる場合が一般的ですが、人によっては右、左と続く場合もあります。
フィリピンの子供達は親戚のおじさん、おばさんや親の友達に会った時は、「ほらおじさんに『マノ』をしなさい」、「ちゃんとおばさんに『ベソベソ』をしなさい」、と言われて育ちます。フィリピンの人たちにとっての「マノ」や「ベソベソ」は、日本人にとってのお辞儀や挨拶と同じような大切な習慣と言えるでしょう。
 
日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人の夫と1992年に結婚、以後マニラに暮らす。趣味はダンスだが、最近は時間が取れないのが悩み。19389627_10209309735917410_1397776510_n