イフガオ世界遺産の棚田と天然温泉

ルソン島北部山岳地方(コルディレラ地方)の イフガオ州フンドアン町ハパオ村に広がる棚田は、世界最大規模とも言われており、1995年にはユネスコ世界文化遺産に認定されている。
ハパオ村は、イフガオの棚田観光の拠点の町・バナウェの北西に位置し、乗り合いジプニーもしくはトライシクルで1時間ほど。バナウェから日帰りも可能だが、バナウェにやってくる棚田目当ての観光客のほとんどは、ハパオ村までは足を延ばさない。インフラが整っていなかったり、観光客向けの情報が少ないことから、観光客はちらほらと見かける程度だ。
しかし、ハパオ村を始めフンドアン町にあるすべての棚田は世界遺産に指定されていて、高台からの見渡す限りに広がる棚田の景色はどこを見ても息を呑むほどに美しい。また、蛙の合唱が響き渡る棚田の中にぽつぽつと民家が立ち並ぶ様子は日本の農村にも似て懐かしさすら感じられる。
そんな、棚田に暮らす先住民の生活を体験できるのが川沿いに立つコンクリート造りのジョバンニズ・プレイスというゲストハウスから数十メートルの場所にある「べース・キャンプ」。ハパオで生まれ育ったビクターさんがオーナーで伝統的な高床式住居に泊まることができる。
住居は全部で4棟。シャワーの場所を確認すると思わぬ返答が…。「River」と一言。一瞬その言葉を疑ったが、ビクターさんのニヤリともしないその表情を見ると本当に「川で水浴びしなさい」ということらしい。ならば郷に入れば郷に従え。滞在の2日間は川での水浴びがお風呂代わりとなった。私が滞在しているバギオに比べて標高も低く日中はそれなりに暑いため、ナプラワン山からこんこんと流れる清流ハパオ川での水浴びは、後に恋しく思い返すこととなる体験だった(川での水浴びに抵抗がある人は、トイレに設置されている大きなバケツから水を汲んで身体を洗うことも可能)。
翌朝、夜が明ける前に起床。ヘッドライトと月明かりの下、棚田の中の細い道を歩くこと1時間弱。地元の人が愛する天然温泉「BOGYA HOT SPRING」がある(観光客が温泉へ行くにはローカル・ガイドが必要)。小さな売店が併設されているので飲み物やスナックなどは手に入るが更衣室はないため着替えはトイレで。温泉は岩を動かして川の水を流し込み温度調節をする仕組みで適温に保たれていた。身体が十分温まったら、すぐ横を流れるハパオ川でクールダウンの繰り返し。いつまででも過ごせてしまう心地よさだ。気がつけば東側の稜線に朝日が昇り、ケルン(積み石)が連なる一角に光が差し、別世界のごとく幻想的な雰囲気に包まれる。私はといえば、ゆらゆらと川に浮かびながら、新しい一日の朝を迎えていた。なんとも贅沢な朝風呂だ。
温泉に後ろ髪を引かれながらも一路、宿へと歩き出すと、新緑の稲穂に降りた朝露が朝日に照らされキラキラと輝いている。頬を撫で吹き抜ける風はさわやかで心地よい。薄暗い時間は足元に十分な注意が必要だが、ぜひ早朝に散策することをおすすめしたい。
マニラ、バギオ方面からのアクセスは多少不便な点もあるが、自然と共生するイフガオ族の豊かな暮らしを体感しに、ぜひ一度、ゆっくりと訪れてほしい。
(文&写真:環境NGO コーディリエラ・グリーン・ネットワーク、Share & Guesyhouse TALA インターン 阿部佳奈美)

高台から眺める棚田の絶景A superb view of a rice terrace to watch from the hill

大切な稲穂のため草むしりにも余念がないRemove weeds for important rice ears

宿泊したビクターさんの『ベース・キャンプ』とハパオ川Mr. Victor’s “Base Camp” and Hapao River

ハパオ村の棚田を支える石積みMasonry of the foundation of the rice terrace of Hapao village

イフガオ民族の伝統的な高床式の家。扉の開閉にはコツが必要Traditional uphollow house of ifugao people.

温泉で温まったら冷たい川でクールダウンCool down in a cold river when it gets warmed by a hot spring

BOGYA HOT SPRINGの横を流れるハパオ川Hapao River running beside BOGYA HOT SPRING

キラキラと揺れる朝露に濡れた稲穂Rice ear wet with morning dew that shakes glitterly