英語を使って仕事をしたり、学んだりしている
人たちは、どのように英語を身に付けたのか。
4人のフィリピン在住日本人に英語の学習体験を聞いた。

独学で英語試験に挑戦
豪州の大学院を修了

朝戸サルヴァドール千鶴さん 看護師として勤務後、1998年に結婚を機にボラカイに移住。比日経済連携協定(EPA)に基づく日本で就労希望のフィリピン人看護師の日本語教育支援および医療、観光関連英語通訳・調査業務等を行っている。日本赤十字看護大学卒業、豪州グリフィス大学大学院通信課程看護学修士。日本語教育能力検定試験合格。神奈川県鎌倉市出身。

ボラカイに移住後、オーストラリアの大学院の通信課程に入学しました。それまで本格的に英語を学んだことはなく、なんとか意思疎通ができる程度。大学院は日本語で学べるコースだったのですが、スクーリングで豪州ブリスベンのキャンパスに行き、現地で英語に触れたことをきっかけに、英語で学ぶコースで修士号をめざすことにしました。そのため英語の試験のスコアが必要となり、独学でTOEFL(iBT)対策の勉強をしました。総合点は94~95点で基準をクリアしたのですが、スピーキングが21点で必要な22点に届きません。大学院の在籍期限もあるのでTOEFLをあきらめ、IELTSのテキストを使い独学で受験したところ、基準スコアの6.5をクリアできました。TOEFLのスピーキングはパソコンに録音するのですが、私にはIELTSの面接での試験の方が向いていたようです。
今は仕事で英文資料を読み込むことが多く、これが英語の学習にもなっていると思います。プレゼン動画TEDのフレーズを自分で発声し、録音できる機能があるアプリを使ってスピーキングを練習することもあります。「英語ができる」というのは、英語で考え、話せるようになることだと思います。
英語を学ぶなら何か目的を持つといいのではないでしょうか。私の場合、以前は英語試験のスコア、修士課程の修了であり、今は通訳の仕事がモチベーションになっています。昨年、 日本語教師の検定試験を受験しました。これも日本で働くことを希望するフィリピン人看護師の日本語学習支援をしっかりしたいという目的意識からです。

 

英語で伝えるだけでなく
伝わり方も考慮

小日山 瞳子さん MESCO,Inc.勤務。外国語学部スペイン語学科卒業。米国ワシントンD.C.に語学留学後、ニューヨーク・マンハッタンおよび日本で外資系企業勤務を経て2016年からフィリピン在住。東京都出身。

現在、産業機械の専門商社で営業兼ジャパンデスクとして働いています。フィリピンの会社なので社内での会話は100%英語です。対面で会話できる時はわりとフランクな英語で話しますが、メールでの対応は受け手の表情が見えにくい分、社内・社外問わず伝え方には特に気を遣っています。例えば「認識する」といった意味合いを含む単語一つでもknow, realize, recognize, notice, awareそれぞれニュアンスが違います。こちらの意図がより確実に伝わるよう、その時の状況に合わせて使い分けています。パソコンにはオンラインの英和・和英辞書、オックスフォード英英辞典、語彙の重複使用を極力避けるためThesaurus (類語辞典)を常に開いておき、すぐに確認できるようにしています。
私は大学卒業後、日本で就職した後に米国ワシントンD.C.にある語学学校へ半年間留学しました。その後ニューヨークのHRコンサルティングファームでの勤務を経て、帰国後はシンガポール資本の企業で働きました。これらの経験から実感していることは、日本人同士では主語や目的語を割愛した日本語で十分理解し合えても、文化、価値観、言語の違う人々と誤解なくコミュニケーションを図るには全てをきちんと言語化する必要があるということです。
私は英語力向上のため、米国滞在時には仕事でもプライベートでも日本語を一切使わないことを意識していました。米国本土の米語、特に普段の口語会話においては圧倒的にphrasal verb(句動詞)での表現が多いのですが、同じ表現をビジネス文書で使うとやや稚拙な印象になります。生きた英語を身に着ける上でもネイティブスピーカーとのコミュニケーションを日常的にとれる環境に身を置き、実感値を積み重ねていくことは非常におすすめです。

TOEIC350点から1年で大学レベルに上達

足立 尚優さん デ・ラ・サール大学セントベニール校4年在学。 YouTuber、留学アドバイザー、マニラの魅力を発信する現地日本メディアのプランナー/クリエーターとしても活動中。フィリピン在住4年目。岐阜県山県市出身。フィリピンの大学進学と英語習得の体験や、フィリピンに関する在住者ならではの視点での情報をYouTubeで発信している。 【TOEIC 350点フィリピンの大学に進学】 https://www.youtube.com/watch?v=hEpDcj-ji5A&feature=youtu.be

私の父は日本人で、母がフィリピン人です。大学1年まで日本で暮らし、母が日本語堪能だったこともあって私は日本語の環境で育ちました。高校2年の時にテレビで日本人の俳優が英語を話しているのを見て「かっこいい」と興味を持ち、英語ができるようになりたいという思いがありました。 大学入学後に受けたTOEICは350点。英語ができるようになるために日本の大学をやめ、フィリピンに来ました。デ・ラ・サール大学セントベニール校に入学の際は英語試験のスコアは求められず、入学まで家庭教師に1日4時間、3カ月英語を習いました。しかし大学で学ぶレベルには程遠く、授業に出ても宿題を出されたのかどうか、またどんな内容の宿題かも全くわかりませんでした。そんな中で、授業科目にあったAcademic Englishなど英語のクラスを履修したり、自分で英語のインプットとアウトプットを繰り返したりしました。またフィリピン人との飲み会などには積極的に参加するなど、とにかく英語で話す機会を増やしました。そして約1年後には授業で英語のプレゼンや、自発的に発言ができるようになったのです。もっと英語を深く学びたいと思い、IELTS対策講座に通ったことがあります。3年ほど前に受けたIELTSの模擬試験のスコアは6.5でした。
「英語ができる」というのは、やはりネイティブスピーカーのように自由に使えるようになることだと思います。私は今も映画を英語字幕付きで見たり、洋楽を聞いたりして英語の表現を勉強しています。

 

どんな人にも伝わる
聞きやすい英語を

菅原 明子さん 米国ウィノナ州立大学卒業後、日系企業シカゴ支社、シンガポールで学術出版社勤務を経て、夫の転勤に伴い昨年からフィリピン在住。現在、ライフコーチとして活動。TOEIC 965点。北海道恵庭市出身。

中学時代から自分なりに英語を勉強していました。例えば、洋楽を聞いてカタカナで書き起こし、実際の英語の歌詞と比べてみたり。英語科のある高校に進み、受験期に周りの友人が受験勉強をする中で、TOEFLの勉強をしていました。そして高校卒業後に米国ミネソタ州のウィノナ州立大学に進学し、コミュニケーション学を専攻しました。就職を含めると米国で暮らしたのは9年。その後シンガポールで5年働きました。フィリピンに来てからも公私ともに英語で過ごすことがほとんどで、スペイン人の夫との会話も英語です。
英語を真剣に身に付けたいと思うなら、自分で英語を話す環境をつくる覚悟が必要だと思います。大学時代は日本からの留学生も多かったのですが、私はなるべく日本語を使わないようにしていました。また英語圏にいない時でも1人でできるスピーキングの練習方法として、さまざまなシチュエーションを想定して話すということをしていました。道を尋ねられた時や病院に行った時などをイメージして会話をつくり、発声するという方法です。
仕事で英語を使っていると、専門的な英語が身に付きます。それは必要なことではありますが、私は多様なバックグラウンドを持つどんな人たちともコミュニケーションできることこそ、英語力だと思います。そして英語のネイティブスピーカーではないので、私は相手が聞きやすい、ニュートラルな英語を話すことを心がけています。
フィリピンは英語を学ぶのに適していると思いますね。国によっては年齢によって英語力に大きな差があったり、強いなまりがあったりとさまざまですが、その点、フィリピンでは平均的に通じやすい英語が話されているように感じます。