被災後に盛り上がる観光業 ピナツボ山登山
ラハールと呼ばれる、ピナツボ山噴火時の泥流が砂漠の様に広がり、その向こうには山々がそびえ立つ。高くそびえ立つ山肌が朝日に照らされオレンジ色に染まる。息をのむ美しい朝の光景が登山客逹を迎え、登山が始まると、小川が流れる木々の緑や風に吹かれる草原など、ピナツボ山はさまざまな顔で、頂上へと向かう登山客たちを楽しませる。
そして登山の目的地である火口にあるピナツボ湖は、首都圏からわずか数時間のところとは思えないほどの壮大な風景がある。今回は週末に「ちょっぴり本格派登山」を楽しみたい人にオススメの、ピナツボ登山についてご紹介する。
被災地から人気登山スポットへ
ルソン地方パンパンガ、タルラック、サンバレス各州一帯にまたがる標高1600メートルのピナツボ山は、1991年の大噴火から25年の時を得て、毎週末多くの登山客が集まる周辺地域有数の観光地となった。
犠牲者、多くの避難民を出し、20世紀最大とも言われる大規模噴火が発生したピナツボ山だが、被災の経験を乗り越え、今は噴火でできた特有の美しい風景を生かして人気を集めている。
登山に計6時間はかかるピナツボ登山は「気軽なハイキング」というよりは「ちょっぴり本格派登山」と表現する方が適しているが、山で待つ美しい風景は、6時間以上かけて歩くだけの価値があるものだ。
ピナツボ山までの激しい道のり
ピナツボ山を登るにあたり、登山スタート地点までにラハールの中にある大きな川も渡る必要があり、安全のためにも登山客はガイドの予約が義務付けられている。筆者は、ピナツボ山登山ガイドを務めて約10年というフランス人ガイドのティー・ベシェットさん(43)にお願いし、登山に挑んだ。
ちょうど日が昇った頃から登山を開始するために、まず自宅がある首都圏マカティ市を友人逹と共に午前3時ごろに出発。バンに揺られ、まだ暗いうちにガイドとの集合場所であるサンバレス州ブスラン町に到着。
ガイドと落ち合い、登山中の注意点やコースの説明を受けているうちに少しずつ空が明るくなり始める。そこからは登山口までラハールや川を越えるために四輪駆動車に乗りこむ。筆者の乗り込んだ車両は軍隊の兵士を荷台に乗せるトラックさながら。
車両以上に特筆すべきが、ラハールを走り抜けるの揺れ具合だ。車酔いをしやすい人には少しきついかもしれない。どこまでも広がるラハールを1時間ほど真っすぐ走るだけなのだが、ラハールが平坦でないために、上下に激しく揺れるジェットコースターに乗っているかのような状態。
風がきつく灰が目に入るために、頭を覆うスカーフや帽子、マスク、サングラスもしくは水泳用ゴーグルを持参することをオススメする。
人生山あり谷あり、川もあり?
登山が始まれば、美しい緑の木々や草原、峡谷など、さまざまな風景が代わる代わるに登山客を迎える。大人の背丈の何倍もあるような岩と岩の間の斜面を登っていく。道のりの約3分の1の地点である草原を抜けると、大きな峡谷に抜ける。そこからは川の中を進むので、履いていく靴選びにには慎重になるべきかもしれない。
アエタ族
登山途中、草原の先にある、先住民アエタ族の小さな集落にも寄り、休憩をとる。山の中で暮らす彼らの生活振りを少しだけ垣間見ることが出来るが、小さな集落に住むのは、アエタ族男性の登山ガイドの家族や親戚だ。
元来アエタ族が住んでいた一帯なので、ピナツボ山で登山ガイドを行う旅行会社は、アエタ族の人々を優先的に登山ガイドアシスタントに起用しているという。農業をして生計を立てていた住民も被災で作物が作りにくくなり、家族を養うことが難しくなった。今も米やカモテを作りながら暮らす住民も多いが、登山ガイドは重要な収入源となっているという。
登山には水1.5〜2リットルや食料を持参することが必須だが、中間地点とピナツボ湖では、アエタ族の人々や子どもたちが水やスナック、手製アイスクリームなどを販売している。
長時間の登山に十分な水と食料を持参することは言うまでも無いが、登山途中には、彼らの生活を助ける意味でも、彼らから少しのスナック菓子や水を購入するのも良いかもしれない。
ピナツボ湖の壮大な風景
6時間以上の登山も苦でなくなるのが、頂上にあるピナツボ湖の息をのむような美しい風景だ。頂上に到達すると「ピナツボ火口湖へようこそ!」と看板が立ててあり、皆いっせいに湖を背に写真撮影だ。
早朝から登山をしているので頂上到達時にはお昼時。美しい風景を前に食べる昼食は格別だが、時間があれば、是非階段を下りて湖畔での風景を楽しんで欲しい。まるでヨーロッパの山奥に現れた湖かのような壮大さを有する湖畔の景色は、一見の価値がある。
雨期には川の水量が増えるために、6月中旬〜10月まで登山客の立入は禁止されている。是非、乾期の間に、首都圏では見られない景色に出会いに、訪れてみてはいかがだろうか。