フィリピンには様々な酢があり、各地方にそれぞれ独特の酢があります。日本では米酢や穀物酢が一般的ですが、フィリピンではサトウキビやヤシの花の蜜、ココナツジュースなど、亜熱帯ならではの原料が使われます。
Sukang Sasa 「スーカン・ササ」
(ニッパヤシの花蜜酢)
タガログ語で「酢」のことは “suka「スーカ」”と呼びます。スーカン・ササとはニッパヤシの花の蜜から作った酢です。ニッパ・ビネガー、パーム・ビネガー等の名称で売られているのもこの酢で、ブラカン州パオンボン特産の物はスーカン・パオンボンとも呼ばれます。新しい物は白っぽく、発酵熟成が進むにつれて黄色っぽくなっていきます。癖がなく、マイルドな酢なので、何にでもよく合い、この酢に潰したニンニクと粗塩や赤トウガラシを入れた物は魚の素揚げにも合いますし、この酢にショウガとニンニクと塩を入れたもので魚などを煮る料理はパクシウと呼ばれます。
Sukang Tuba「スーカン・トゥバ」
(ココナツ酢)
スーカン・トゥバは、ココヤシの実のジュース、または花の蜜から作った酢です。ココナツの花の蜜を発酵させたお酒は「トゥバ」と言い、これをさらに発酵させたのが、このスーカン・トゥバです。ココナツ・オイルやジュースが体に良いとして流行しましたが、これらに含まれるミネラルやビタミン、必須アミノ酸が酢にも含まれています。スーカン・ササと同様、マイルドでフルーティーな酢で、ニンニクやトウガラシを漬け込んだスパイス酢を作るのにも適しています。
Sukang Maasim 「スーカン・マアシム」
(酸っぱい酢)
スーカン・マアシムとは、「酸っぱい酢」という意味です。酢なんだから酸っぱいのは当たり前ですが、一般にサトウキビを原料とした酢がこう呼ばれます。上記スーカン・ササより若干酸味が強いため、このように呼ばれるのでしょうか。鶏肉や豚肉をニンニクやコショウと酢で煮込んだアドボを作るのに最適だと言われます。Cane Vinegarと表記してあるものも同じ物です。砂糖を作るのには使えないサトウキビの部分などを使うので非常に安価です。米酢の代わりにこの酢を使って酢飯を作ると、まろやかな酸味のある酢飯に仕上がります。
Sukang Iloko 「スーカン・イロコ」
(イロコスの酢)
スーカン・イロコはイロコス地方特産で、サトウキビの絞り汁を糖蜜になるまで煮込み、それを壺に入れて発酵させて作ったお酒「バシ」にドゥハット(ムラサキフトモモ)という果実を加え、さらに発酵させたものです。イロコス地方の酢ですから、イロコス地方のロンガニッサ(ソーセージ)やバグネット(豚バラを揚げたもの)などと合うのはもちろん、他の酢と同じように使うことができます。
Sinamak「シナマック」
(スパイス入りの酢)
ココナツ酢にニンニクやトウガラシやショウガなどを漬け込んだスパイス入りの酢はビサヤ地方でシナマックと呼ばれます。他の酢と同様、揚げ魚や、魚の干物「トゥヨ」などにつけて食べるのが一般的です。中でもPinakurat(ピナクラット)という名前で売られているスパイス入りの酢はセブアノ語で「驚かせる」という名前の通りのピリっとスパイシーな驚きの味。筆者一押しのとっておきです。主なスーパーで入手できますので、ぜひお試しください。(悦)
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