フィリピンの絶景と出逢う山の旅
フィリピンの自然と言えば、まず美しい海を思い浮かべる人たちが圧倒的だと思うが、実は、フィリピンには、ミンダナオ島のアポ山(2,954m)、ドゥラン・ドゥラン山Mt.dulang-dulang(2,938m)、ルソン北部のプラグ山(2,922m)をはじめ、登山愛好者を魅了する数々の山がある。
今回、私はフィリピン第3の高峰で、ルソン島北部に位置する中央山岳地帯の最高峰、プラグ山に挑戦することとなった。ルートは最短コースであるアンバギッグ・トレイル(Ambangeg trail)。ご来光を見るために、テントで仮眠をとって、夜中に出発するという行程だ。
プラグ山は今年1月、登山者の不注意な行動による大規模な山火事により、入山禁止とされていたが、再び足を運べるようになった。とはいえ、国立公園内にそびえるプラグ山は植生保護という理由から、1日に入山できる人数の規制がある。入山するには事前の予約とビジターセンターでのオリエンテーション参加、健康診断書の提出、そしてローカルガイドの同行が必要となる。
今回の登山は、バギオに支店を持ちアウトドア・ウェアなどを扱うフィリピン・オリジナル・ブランド“LAGALAG”が主催。早朝4時にショップで待ち合わせ、参加者総勢14名と共に、まだ暗いうちにバギオ市内をレンタカーで出発。午前中にオリエンテーションを受け、お昼前にはレンジャーステーションに到着。オリエンテーションはタガログ語と英語での説明だったため、多少理解できない部分もあったが、入山する上での心持ちや注意点など、映像を交えて説明してくれるので安心だ。食堂で昼食を済ませ、テントや寝袋をレンタルして寝床づくり。
アンバギッグ・トレイルのルート上には、途中、2ヵ所のキャンプ・サイトがあるが、わたしたちの登山パーティーは、レンジャー・ステーションから5分ほどの所にベース・キャンプを張った。テント設営後は、周辺の景色を楽しんだり昼寝をしたりゆったりと過ごす。
しかし、そんな穏やかなひとときもつかの間、私たちは山からの洗礼を受けることとなる。午後、外でのんびりお茶を飲んでいた時だった。辺りが霧に包まれ、暴風と共に雷雨、雹に見舞われ一時騒然となる。レインコートを身に着けていなかったことを後悔したが、こんなときは山の神様に祈り、天候が落ち着くのを待つしかないのだ。
夕方になると天候も落ち着いたので、夕食をとり、深夜1時の出発に向けて仮眠をとる。
深夜0時、テントから出るとうっすらと流れる雲にお月様。身支度を整え、いざ出発。
日中の雨で足元が悪く、途中、渋滞が起きる。団体での登山では、はぐれないよう最後尾の人のペースに合わせるため、真っ暗で景色こそ見えないが、ほどよいハイキングといった感じだった。
頂上直下は軽い急登となっているが、ベース・キャンプからは3時間半ほどで頂上に到着。
すでに数十名の登山者が頂上に到着していてにぎやかだ。頂上は風通しが良く肌寒かったため持参したダウンとレインコートを着て、ご来光を待つ。天候は高曇りで霧が忙しそうに流れてゆく。しかし、あたりが薄明るくなって来たころには、東の空の視界が広がりなんとも幻想的なご来光を拝むことができた。
下山は、少々急ぎ足であったものの、視界も開け、夜道では見ることのできなかった山容が伺え、さっきまで自分たちがいた頂上に多くの人の姿が見える。行きかう人々と挨拶を交わしながら下っていると、ブロッケン現象も見ることができ、苔むした森に差し込む光は美しく、ほどよい気候のもと、山歩きを満喫した。
下山後はテントを片付け、遅めの朝食をとって、興奮に後ろ髪を引かれながらプラグ山を後にした。ともに頂を目指した仲間たちとの別れは思いのほかあっさりしたものではあったが、それぞれ、年齢も仕事も暮らしている場所も違うメンバーが、ひとつの頂を目指し共に過ごした時間はかけがえのない思い出だ。
登山をするにあたっては、体調を整え、必要最低限の登山装備(雨具、防寒、ライトなど)が必要となるが、日本とはまた異なったフィリピンの山の世界もぜひ一度はトライしてみてほしい。
(文&写真:環境NGO コーディリエラ・グリーン・ネットワーク、Share & Guesthouse TALA インターン 阿部佳奈美)