Tubo in Province Abra in deep mountain is Eco Paradise.
ルソン島北部のコルディレラ山岳地方6州のひとつであるアブラ州は、山岳地方の中でもかなりの奥地にあります。バギオからは西側に山を降りてラ・ウニオン州を海沿いに北上し、世界文化遺産に指定されているヴィガンの手前から再び東に入って山を登ります。とてもアクセスが悪く、これといった観光名所がないため、ほとんど観光客が訪れることはありません。
今回、私はラッキーにも、そんなアブラ州の中でもかなり奥まったところにあるトゥボ町で行われた「BEGNAS FESTIVAL」に参加する機会を得ました。
誰も知らない山岳地方の村の訪問です。
「BEGNAS(ベグナス)」というのは、現地の言葉で「神様への感謝」という意味で、収穫に感謝し、翌年の豊作を願うための感謝祭です。トゥボ町に10あるバランガイ(村)でもそれぞれ古来の方法でベグナスの儀礼は行われているとのことですが、今回参加させてもらったのはトゥボ町役場が催しているフェスティバル。10のバランガイが一堂に会し、3日間にわたって、ミス・コンテスト、バランガイ対抗の伝統舞踊のコンペ、綱引きや腕相撲などの伝統ゲーム大会、バレーボールやバスケットボールなどのスポーツ対抗戦などが行われます。伝統的な文化を次世代に継承する貴重な機会でもあり、町内のすべての小学校と高校の生徒たちも伝統舞踊を披露します。それぞれのバランガイの特産品を販売するブースのほか日用雑貨の店も出店し、とても賑やかなお祭りです。
コルディレラ山岳地方の民族衣装は男性はふんどし、女性はタピスと呼ばれる腰巻です。民族ごとに微妙に手織りの布に織り込まれる柄が違います。トゥボ町に暮らす先住民族はマエン族という民族だそう。民族舞踊のコンペでは、それぞれのバランガイが独特のカラフルな手織りの衣装を身に着け、趣向を凝らした見事な身のこなしの迫力満点の踊りを披露しました。すっかり都会と化したバギオ市のパレードで見る先住民族の踊りとは一味も二味も違います。
それもそのはず。トゥボ町への道のりは、想像を絶するほどスリリングなものでした。アブラ州の州都であるバンゲッドからは、川を3本越えなければ行けないのですが、一本目はコンクリートのちゃんとした橋、2本目はいまにも壊れそうな細い橋、そして最後の川には橋がなく、なんと人の手で漕ぐ筏に車ごと乗って渡らなければならないのです。台風シーズンや雨季に川の水が増量したら、あっという間に陸の孤島と化します。
宿泊させてもらったティエンポ村には小さなサリサリストアはありましたが、みな自給自足に近い暮らしを営んでいます。庭先には廃品で手作りした植木鉢に野菜が植えられ、鶏は放し飼い、集落の周りには豚小屋があります。病院はありませんが代わりにヒーラーがいて、たいていの病は治してくれるそうです。
なんと、お隣のスポ村には川に沸く温泉もあると聞いて、足を延ばしました。棚田を歩くこと数十分。目の前にいきなり夢のように澄んだ川と滝が現れました。川遊びのために、竹で作った筏が浮かんでいて、対岸に渡れます。そして岩をよじ登って川を上がっていくと、洞窟が現れその中に嘘のようにあつ~~いお湯が沸く温泉があるのです。まさにパラダイス!
あまりに交通の便の悪い場所だからこそ残っているディープな伝統文化と手つかずの荒っぽい自然。そして、そこに調和して暮らす人々。まさに理想のエコビレッジを見たような気がしました。
(文&写真:シェア&ゲストハウスTALA、コーディリエラ・グリーン・ネットワーク インターン古城日向子)