100年経ても色あせない伝統の技
Craftsman who grass-dyed yarn in Abra, keep the traditional skill that does not fade even after 100 years.
バギオの観光地や市場の土産物屋をのぞくと、様々な手織りの工芸品を必ずといっていいほど見かける。色鮮やかな織物で作られた小物や伝統衣装を見ると思わず手にとってみたくなる。コーディリエラ地方の各州には独自の手織り文化が存在する。今回は、アブラ州で伝統的な草木染めを継承する共同組合「ナマラバーインディゴ草木染め生産者協同組合」の染め物職人ルイス・アガイドさんの元を訪ねた。
バギオ市からバスで6時間。アブラ州は滔々と流れるアブラ川とその両脇にそびえる山々が印象的な自然豊かな土地だ。
ルイスさんはイラウド部族(ティンギアン民族の中の部族の1つ)。彼らの布の大きな特徴は、様々なモチーフがかたどられた刺繍にある。モチーフにはそれぞれに意味があり、子孫繁栄を意味するカエルや商売繁盛を意味するトカゲ、部族間の調和を表す鷲、富や権力を表す馬や星、アブラ州の風景を表す山や川、稲など様々だ。モチーフは刺繍を入れる布の持ち主や使用用途によって使い分けられる。
現在では、ほとんどの先住民が手織りにも安価な化繊の糸を使っている中で、ルイスさんはピュアコットンの糸を草木染めすることにこだわり続けてきた。その糸で織られた布は、100年以上経ってもなお色あせず使い続けられるという。ルイスさんの家族は代々染め物を行ってきた。過去にはこの地域にも草木染め職人が多くいたそうだが、今ではルイスさんと娘さんだけになってしまった。そんな状況を変えようと、彼は仲間とともに協同組合を作った。この組合では、ピュアコットンの糸を草木で染め、織物工房に出荷している。
最近では製品の生産・販売だけでなく、草木染めに使われる草木の1つであるインディゴの栽培にも力を入れている。徐々に農地を拡大させ、現在インディゴ を栽培する農家はルイスさんの他6人、農地は10ヘクタールに及ぶ。また、後継者の育成と若い世代の伝統文化への関心を高めるため、地元アブラやマニラで子供達向けにワークショップも行っているとのこと。
最近ではこうした活動の成果で、草木染めの糸はコーディリエラ地方の織物工房はもちろん、他地域の織物工房やデザイナーに使われるようになった。しかし、市場に出回っている大量生産できる安い化学繊維の糸との競争は厳しい。
「化学繊維の糸使っている織物工房を訪ね、伝統的なピュアコットンでできた草木染めの糸の魅力を伝えて続けているが、理解してもらえないこともある」 「私が草木染めを愛してやまないのは、草木染めは私たち家族の一部のようなものだからだ。これからも草木染めを復興・継承し、その魅力を伝え続けたい」とルイスさんは熱く語る。
共同組合ではさらに伝統的な製法で作られた布の良さを伝えるため、地元で織られた布を使った製品を国内外に向けて販売している。彼らの商品は海外でも注目されている。
現代を生きる私たちが普段身につける布製品の多くには化学繊維が使われ、工場で大量生産されたものだ。多くの人が布製品を使い捨てるものと考え、デザインが時代遅れになったとすぐに捨ててしまう。しかし、ここフィリピンには伝統的な製法を継承し、長く使い続けることができる織物を今も守り続けている人がいる。愛する技術を守り伝えるため、彼らの挑戦はこれからも続く。
Namarabar INDIGO Natural Dye Producers Cooperative
E-mail : abraindigocooperative@gmail.com
電話 : 0905 325-0713
(TALA Share & Guesthouseインターン:石黒 歩)