豊臣秀吉を魅了した古き良きヨーロッパの音色に酔いしれる
Be intoxicated with the sound of good old Europe that fascinated Hideyoshi Toyotomi.
バギオでは毎年、7月から8月にかけて日比友好月間とし、「バギオ七夕祭」など様々なイベントが開催されている。今年は、バギオ七夕祭が10周年、日比の友好関係が63年目を迎えたことを記念し、特別企画として長崎県天草で活動する西洋古楽器演奏グループ「コレジヨの仲間」による演奏会が、バギオのセント・ルイス大学(7月21日)とマニラの聖アグスティン教会(7月23日)で開催された。
コレジヨの仲間は、天草市河浦町にあるコレジヨ館を拠点とし、活動場所は高校、崎津天主堂チャペル、世界遺産関連イベントと多岐に渡る。1990年のコレジヨ館開館時に、展示物の古楽器をただ眺めるだけでなく生の音色を聴いてもらいたいという想いから地元の有志たちが結成したグループだ。
コレジヨの仲間代表の松村文美代さんによると、メンバーの入れ替わりや活動休止など解散の危機に陥ったこともあったが、「地域の宝を無駄にしたくない」という強い思いで、2009年に新たなメンバーとともにコレジヨの仲間を再結成したそうだ。演奏に使っている古楽器は古楽器制作者の平山照秋さんが復元を手がけたもの。平山さんは楽器を製作するにあたり、ヨーロッパの博物館を訪ねて図面を手に入れたり、自身で採寸し図面化したりしたという。これらの楽器は16世紀に天正遣欧少年使節によって日本にもたらされ、当時、関白であった豊臣秀吉の前で演奏されたと伝えられている。
演奏会を主催した北ルソン日本人会(JANL)会長・小国秀宣さんがコレジヨの仲間と出会ったのは、昨年度のバギオ七夕祭りのテーマであった天草四郎に関する調査旅行でコレジヨ館を訪れた時だそうだ。そこで聞いたコレジヨの仲間の演奏が素晴らしく、その場で「フィリピンに来て演奏を披露してほしい」と依頼したのだという。
バギオでの公演ではコレジヨの仲間の演奏のほか、平山さんによる楽器製作に関する講演、セント・ルイス大学のオーケストラとの音楽交流などが行われた。音楽交流では、コレジヨの仲間がフィリピンで親しまれている曲「バハイクボ」を、セント・ルイス大学のオーケストラが日本人になじみの深い「さくらさくら」を演奏した。コンサートの最後には会場から割れんばかりの拍手が送られ、奏者と観客が一体となった公演であった。コレジヨの仲間のメンバー安尾宣子さんは、「学生さんの明るく、心のこもった『さくらさくら』の演奏、オーケストラ編成がダイナミックなことも素敵だった。若い大学生との交流も楽しかった」と日比の文化交流を楽しんだ様子だった。
「演奏会の開催に至るまでは苦労もあったが、会場が大歓声に包まれたこと、大学生が平山さんによる講演に興味深く聞き入ってくれたことを嬉しく思う。演奏会を開催してよかった」と小国さんも話す。
コレジヨの仲間にとって今回の演奏会は初めての海外演奏旅行だった。中には今回が初めての海外というメンバーもいた。
「私たちの素朴な音楽が国境を越えてフィリピンのみなさんに喜んでいただけて、今まで音楽を頑張ってきてよかったと感謝の気持ちでいっぱいになった」と、コレジヨの仲間のメンバー原田綾さんは話す。また、同グループ・メンバー吉岡渚さんは、フィリピンと日本の間の戦争の歴史に触れ、「音楽は時に悲しい歴史の中でも人々の心を支え、癒やしてきた。大変な想いをされた方々や出来事を忘れず、これからも音楽が、誰かを支え笑顔にするものと信じて奏で伝え続けたい」と語った。コレジヨの仲間のメンバーにとってもこの演奏会は、フィリピンと日本のつながりや人々の温かさ、音楽が持つ力を感じる意味深い時間になったという。
演奏会を通して、音楽が言葉の壁を越えて心と心を繋ぐ力を持っていることを知ることができた。そして、長く続くフィリピンと日本の交流関係を知るきっかけとなった。今回の演奏会がフィリピンと長崎・天草の交流を活発にするきっかけになること、そして日本とフィリピンの交流関係がこれからも続いていくことを願う。
(Share & Guesthouse TALA インターン 石黒 歩)
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