スーパーや市場で売っている赤く着色された卵。これが「イトロッグ・ナ・マアラット」、塩漬けにしたアヒルの卵を茹でた物です。イトロッグは卵、マアラットは塩辛いという意味ですから「塩辛卵」と訳す方が正確かもしれません。赤く着色してあるのは、普通の卵と区別するためで、「イトロッグ・ナ・プラ」(赤卵)とも呼ばれます。
アヒルの卵の塩漬けは中国や台湾、東南アジア諸国で広く作られています。他国では塩水に3~4週間漬け込んだあと茹でますが、フィリピンでは、パテロス製法という特殊な方法で作ります。粘土と塩と水を混ぜた物をアヒルの卵の殻の上に塗り、新聞紙で包んで木箱で2週間熟成させ、粘土を洗い落として30分間茹でたら完成です。本来、長期保存のために塩漬けにしたものですから、常温で3か月くらいの賞味期間があります。中国、台湾では白身は捨てて黄身だけを食べますが、フィリピンでは白身も黄身も全部食べます。鶏卵でも作れますが、アヒルの卵の方が丈夫で割れにくいため、一般的に使われるようになったようです。
市販品は調理済みなので、殻ごと包丁で半分に切り、スプーンなどでくり抜くように殻を外して、食べやすい大きさに切れば準備完了。バグス(ボラ)を酢漬けにした「ダイン・ナ・バグス」や燻製にした「スモーク・バグス」を油で揚げた料理の付け合わせには塩卵とトマトが定番ですし、ワラビのようなシダ植物「パコ」のサラダやラト(海ブドウと呼ばれる海藻)のサラダにも塩漬け卵を入れます。またエンサイマーダやビビンカといったスイーツに塩漬け卵のスライスが乗っているものは「スペシャル」として珍重されます。華僑の「中秋の名月」のお祭り、中秋節に食べる月餅には、満月にみたてた塩漬け卵の黄身が入っているので、ビビンカやエンサイマーダに乗せるのは、月餅の影響なのかもしれません。
実は最近、塩漬け卵の黄身をまぶしたポテトチップスがマニラで大ブレーク中です。もともとこの塩漬け卵黄ブームはシンガポールから始まったもので、黄身をまぶしたフライドチキンやカニ料理、塩漬け卵黄入りカスタードケーキ、ドーナツ、果てはアイスクリームまで次々と大ヒット、その流れで登場したのが塩漬け卵黄ポテトチップスです。この商品がフィリピンでも販売されはじめたかと思ったら、あっという間にローカルブランドが次々と誕生しています。塩漬け卵の黄身がまぶしてあるといっても、砂糖も入っているので甘辛く、パルメザンチーズのようなコクがある味が特徴です。日本では知名度の低い塩漬け卵ですが、調味料としても、プラス1の素材としても、工夫次第でまだまだいろいろな使い方がありそうですね。(悦)