著者:岡田 薫 出版社:論創社 定価:本体1,800円+税 ISBN: 978-4-8460-1852-8 まにら新聞にて発売中(価格900ペソ)。まにら新聞購読者には配達料無料(※配達地域等条件あり。詳細はjpdesk@manilashimbun.com、Tel: 890-8480 / 551-8238へお問い合わせください)。 アマゾン、日本国内主要書店でも発売中。

同僚のまにら新聞記者が、本を出した。2012年秋に来比し、首都圏ケソン市のバランガイ(自治体の最小行政区)に暮らす中で遭遇した人々と出来事を克明に、そして自身の体験を赤裸々に書いている。同僚といっても私は彼の断片的な経歴しか知らなかったので、今回初めて知ることが多かった。そして、こんな経験をしていたのかと驚かされた。
著者はフィリピン大学大学院(アジアセンター)で学びつつ、マニラの下町、「都会の中の田舎」と称されるバランガイにどっぷりとつかった。大学院とバランガイの路上、環境が全く異なる2つの世界に身を置き、そこに集う人々とふれあった。多くの在住邦人にとって、バランガイは未知の世界かもしれない。また将来、都市整備によってバランガイはその姿を変えてしまうかもしれない。その意味でもこの国で生きる「マジョリティーに属する人たち」の日常が書かれた本書は、貴重な記録といえるだろう。
本書を読んで、私はベトナム戦争のサイゴン陥落時にべトナムの人々とともに生きた新聞記者、近藤紘一氏の『サイゴンのいちばん長い日』(文春文庫)を思い出した。この名ルポルタージュに小説家の開高健氏が次のような序文を寄せている。「おかしくもあれば凄絶でもあり、必死であるが悠々ともしているあの国の路上の人々の姿態が率直、公平、柔軟にスケッチされ……(中略)これは、顔もあれば眼もある本である」。
これは、そっくり本書にもあてはまると思う。(T)

読者プレゼント

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バランガイの光景(本書より)