バギオ市は10月28日から観光客の受け入れ規制を緩和し、ルソン島全域(マニラ首都圏を含む)から1日当たり500人の観光客の受け入れを始めた。VISITAというバギオ市政府運営の観光客向けの特別サイト(http://visita.baguio.gov.ph)で事前に登録してパスの発給を受け、新型コロナウィルスに陰性であるという検査結果を提示することが、観光客としてバギオを訪れる条件だ。バギオに別荘を持っている人なども、VISITAパスとCOVID-19検査陰性の証明書を取って自家用車で入るのであれば、長期滞在もできるようになった。マニラからの長距離バスはまだ運行されていないが、観光地や街中には明らかに観光客と思われる人の姿が目に付くようになってきた。
バギオ市は2017年、ユネスコ・クリエイティブシティに「クラフト」部門で指定された。アート&クラフトを観光客誘致に結び付けようと、バギオ市が先導して開催する「イバギウ(IBAGIW)」というアートとクラフトのフェスティバルは、今年で3回目となる。昨年のフェスティバルはアートに縁のなかった市民を巻き込むことに成功して、大盛況だった(ナビマニラ2020年1月号 記事)。
今年は御多聞に漏れず、11月6日のグランドオープニング式典はオンラインでのライブ配信となった。バギオ経済を再活性化させるためには観光客の受け入れは必至と誰もが考えているが、感染者の数は11月になっても横ばい状態で、バギオ市政府も恐る恐る感染状況の推移を見ながら受け入れを進めていかざるを得ない。
伝統の手工芸を救う
オンライン販売
3月半ばからのロックダウンで観光客がいなくなり、バギオのクラフト市場は瀕死の状態だ。観光客がお土産を買うのに必ず立ち寄るバギオ市場の手工芸品ブースは今も閑散としていて、在庫の木彫りやかご製品、手織物や手作りアクセサリーが山積み状態だった。山岳地方のコミュニティで作られている手工芸品は、運搬手段が皆無のため、バギオの市場にさえたどり着かない。伝統の手仕事を地道に継承してきたクラフトマンたちは一気に仕事を失った。
イバギウ・フェスティバルでも木彫りや手織りなどの手工芸品のオンライン・コンペティションが開催されるなど、貴重な観光資源でもあるバギオと山岳地方の伝統工芸の灯を絶やすまいと必死の努力が続いている。フィリピン大学バギオ校のコーディリエラ博物館Museo Kordilyeraの協力で、キャンパス内では MANDEKO KITO (イバロイ語でLet’s Sell)と題したクラフト・マーケットが11月7日から30日までの週末に開かれ、バギオの大小の手工芸品販売業者のブースが出店している。
このパンデミックでオンライン市場が活況を呈しているのは世界中どこの国でも共通する。フィリピンでもありとあらゆるものがオンラインで購入できるようになった。今まではわざわざ工房や小さなショップに出向かないと手に入れることができなかった地方のめずらしい名産品や手工芸品も、「サポート・ローカル」のうたい文句のもと、その価値が再認識されオンライン・ショップで手に入るようになった。ルソン島北部の手工芸品の生産者もこの機に素敵なオンライン・ショップをオープンするところが相次いだ。パンデミックによる「怪我の功名」と言えるかもしれない。
〇Ifugao Nation
イフガオ州キアンガン町のイカット(絣/かすり)織りや草木染の復興を行っている。
〇Balay ni atong
イロコス州やアブラ州で継承されてきた手織り布製品。ベッドリネンやキッチン用品など豊富な品揃え。
〇Batik Atbp
カリンガ州やマウンテン州の手織り布製品や伝統のアクセサリーを販売。
〇Sagada Pottery
移動規制でマニラどころかバギオにも来られないサガダの陶房「Sagada Pottery」は、首都圏ケソン市の陶芸スタジオ「Hey Kessy Pottery」のサポートでオンラインで作品が買えるようになった。
バギオ市場の手工芸品ブースの中には、職人とブースの維持が難しいため、フェイスブックやLazadaなどのオンラインショップでの販売に乗り出したところもある。
〇928 Wood Carving
店名はそのまま市場内の店舗のブース番号のイフガオの職人たちの木彫り製品ショップ。価格は極めてリーズナブル。https://www.facebook.com/928woodcarvings
職人を支援するアイデア
消費者に伝える社会的意義
私がフィリピン人スタッフたちと運営するローカルコーヒーのソーシャルビジネス・カンパニーでも、市場で手工芸品を卸していた職人たちとのコラボ企画を開始した。バギオや山岳地方の職人たちにオリジナルのコーヒーの抽出道具などを作ってもらうというものだ。日本で私たちのコーヒーを輸入してくれているフェアトレード・カンパニー「シサム工房」(京都市)もデザインで協力してくれた。
今のところまだ商品数は少ないが、コーヒー豆のオンライン・ショップ(https://www.yagamcoffeeshop.com/yagam-craft)で販売を始めたところ、コーヒーとセットで購入してくれる人が多く、好評だ。制作を依頼した職人たちからは「数カ月間注文がゼロでした。本当にありがたい」との声が多く寄せられている。
マニラの富裕層を対象とした伝統の手織り布を使った斬新なデザインのファッション・ブランドも次々と登場している。伝統織物が持つ従来のイメージを180度覆す、フィリピンらしい派手で奇抜なデザインに驚かされる。どれも作り手たちの情報をオンラインで丁寧に発信して、社会的な意義のインパクトを強調する新しいファッション・ビジネスだ。
〇Maison Métisse
創業者の女性はパリでファッション・デザインを学び、卒業後ニューヨーク滞在中に日本の「さをり織り」にインスパイアされたそう。フィリピンに帰国し、各地の伝統の手織りによるファッション・ブランドを立ち上げた。
https://www.maison-metisse.com/maisonmetisse
〇Anthill
フィリピン各地の伝統の手織りを斬新な洋服やファッション雑貨にデザインして販売するソーシャル・アパレルメーカー。子供服から男性用まで幅広いラインナップ。
〇Namnama
カリンガ州随一の手織りのコミュニティ、ルブアガン町のマビロン・バランガイの織り手たちがパンデミックで手織り製品の売り先がなくなり、地元出身の女性がマニラのデザイナーなどの協力を得て起業した。
〇Pio Pio
パンデミック前から伝統手織り布をカラフルでポップなデザインで販売。
〇Frankie and Friends
手織りにとどまらず、フィリピン各地の小さな生産者たち工芸品などを圧倒的な商品数で揃えている。SMアウラ(首都圏タギッグ市BGC)に実店舗あり。
〇INDI
サガダ出身の大学院生は、手織り布の模様をモチーフとしたソックス専門のオンラインショップをオープンした。ガッツリな手織り製品はちょっと・・・・・・という人に。
生産者のサポートに結び付く
クリスマスは「買って応援」
パンデミックによる外出制限でフィリピンの人々の消費動向には明らかに変化が起こった。あれよあれよという間に、買い物客でごった返していた大型モールに行かずとも、生活必需品はオンラインで手に入るようになった。バギオ市の隣、ラ・トリニダード町の郊外に住んでいる女性は、「近所のサリサリストアの品ぞろえは移動規制が緩和されるにしたがって徐々に充実してきて、いまでは感染にびくびくしながら町のスーパーマーケットに行く必要は全くなくなりました」と言う。
パンデミック直前までは好景気でどこか浮き足立っていたフィリピン。観光客で大渋滞が起きていたバギオも例外ではない。パンデミックで経済活動のスピードが急激に落ち込み、「貴重なお金を使うなら、誰かの役に立つものに気持ちよく使いたい」と、オンラインでじっくり選んでショッピングを楽しむ消費者がマニラの中間層を中心に格段に増加したと感じる。こうした顧客層のニーズにこたえる社会的意義を強調したオンライン・ショップは、今回紹介した手工芸品に限らずあらゆる分野で増え、盛り上がっている。社会的意識の高い若者たちにとってはビジネスチャンスの到来でもある。
来たるクリスマス・シーズン。散々だった2020年の締めくくりに、心のこもったギフトを考えている人も多いはず。バギオや山岳地方の手工芸品の小さなギフトでぜひとも「買って応援」を!
環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。
Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク https://cordigreen.jimdofree.com/