「美術、特に絵画とは、実用的というよりも、美しくあり、さまざまな感情を呼び起こすもの」。
英語辞典で「Fine Art」を調べると、このように出ています。確かにアートは、実用的なものではないかもしれませんが、はるか昔から、人とともに存在してきたのも事実。やはり、人間はアートを必要としてきたと思うのです。
今回は、先月「国際コンテンポラリー・アートフェスト」を開催したギャレリー・ステファニーのアビー・テオティコさんに、時代や国境、文化の差違を超えて人々を魅了するアートについて聞きました。
(聞き手・時澤圭一 写真・Bylson “Monty” Sy)
マニラで人気。日本人画家の
ハイパーリアリズム作品
ギャレリー・ステファニーの共同創業者で夫のジャックと、私にとっての楽しみは海外旅行。そして観光でもビジネスでも、日本はいつも私たちの「行きたいところリスト」に入っています。日本の文化も人も食事も好き。特に東京、大阪、京都を気に入っています。
ギャレリー・ステファニーと日本人の芸術家との最初の接点ができたのは、2018年のアートフェア東京。その後、田中英生(ひでお)さんの作品をマニラでのグループ展で紹介し、昨年は個展を開催しました。ご本人もマニラにいらっしゃる予定でしたが、コロナ禍でかないませんでした。
ギャラリーと芸術家の関係は信頼関係を築くところから始まります。芸術家にとって大切な作品をギャラリーに預けるわけですから、当然ですね。田中さんとは通訳を介して意思疎通しました。
マニラで田中さんの作品はほぼ完売し、本人は喜ぶと同時に、少し驚いていらっしゃいましたね。先月行われた国際コンテンポラリー・アートフェスト(ICAF2021)でも田中さんの出展作品はすべて、開催前の内覧会で売約済になりました。田中さんの奥様の横山佳子さんも芸術家で、今回いっしょに出展いただきました。
田中さんの作品は、ハイパーリアリズムというジャンルの絵画。フィリピンで人気が高いジャンルで、精密に描く技術が高く評価されています。私は田中さんの作品を見ると、静寂の中に喜びと、作品に対する誠実さを感じます。ほかにフィリピンでは、抽象画や現代芸術のミックスメディアといったジャンルも人気です。
時を超え愛される芸術作品
コロナ禍の中、求められるアート
フィリピンのアート業界は非常に競争が激しい世界。若く才能ある芸術家たちもたくさんいるのですが、自分の作品の価格を正しく決めるには、慎重になる必要があります。芸術作品は数万ペソから数千万ペソするものまであり、価格帯はとても幅広い。家族の中で、何世代にも渡って大切に伝えられる芸術作品もあります。そして、気に入った作品のためなら、どんなに高価であろうと、お金を払うことをいとわない人たちがいるのです。ギャラリーの顧客の多くは、芸術作品の収集家や、作品を家に飾ることが好きな人たち。フィリピンでは、手ごろな値段の絵を買う20代の人も増えています。
海外の芸術家の作品を紹介
地元のアーティストに刺激を
著名な芸術家の作品を紹介するだけでなく、未知の作者、作品を発掘して世に出すのもギャラリー大切な役割です。それは、まさにダイヤモンドの原石を見つけるようなもの。芸術家がより良い作品を生み出すために、提案やアドバイスをすることもあります。一般に芸術家は、作品に対する他人の意見を聞きたいと思っているものです。
私にとっては、いっしょに仕事をしてきた芸術家たちが経験を重ねて成長し、人気を得て行くのを見ることこそ、本当にうれしい成果。美術の世界で仕事をするやりがいを感じます。 ギャレリー・ステファニーではフィリピンの芸術家にチャンスを与えるのと同時に、インドネシア、スペイン、イタリア、シリアなど海外の芸術家との交流にも積極的に取り組んでいます。
芸術家は、型にはまらない思考を持ち、日常のあらゆる面からインスピレーションを感じて創作活動に生かしてほしい。海外の作家の作品を紹介することで、フィリピンの芸術家にさまざまな観点や表現法に触れる機会と、刺激を与えたいという思いがあります。