郷土料理店の先駆け「カフェ・ヤガム」
近年、コーディリエラ地方の先住民族の食文化を観光資源とする試みが、観光省の主導で行われている。2019年5月にバギオ市の中心バーンハム公園で開催された「マガン・タク!」(Mangan Taku =先住民族の言葉で、「食べましょう!」)と名付けられた食の祭典には、山岳地方6州の観光省のお墨付きで、さまざまな郷土料理のブースが並んだ。バギオ市内でコーディリエラ地方の料理を提供しているレストランにも参加の機会があり、私たちが運営していた「カフェ・ヤガム」も招待され、山岳地方産のコーヒーと、豚の血を使って作る昔ながらのブラッド・ソーセージ、もち米の菓子など提供した。イベントは大盛況。今までほとんど知られていなかった山岳地方の食文化に、マニラからの観光客も舌鼓を打った。
奇抜な創作料理がそろったシェフ・コンペティション
コロナ禍で昨年の「マガン・タク」イベントは中止となったが、今年は少しでも観光業を盛り上げたいという観光省の英断で、4月末から5月上旬にかけて、オンラインと実際のイベントと並行する形で開催された。
残念ながら山岳地方からの料理人たちの参加は見合わせられ、バギオ市内でパンデミックの間もなんとか生き延びてコーディリエラ郷土料理を提供し続けているシェフやレストラン、カフェが参加した。コーディリエラ料理のシェフ・コンペでは、バギオ在の料理人たちが山岳地方ならでは食材を使ったり、先住民族の伝統料理をアレンジした創作料理で腕を振るった。
コンペで1位に輝いたレストランは、その名も「Bistro Lokal」。「マガン・タク!」のオンライン・オープニング・イベントで、このレストランのシェフが披露していた料理は名付けて「テラリウム(Terrarium)」。ガラス鉢の中に盛られた、土のようなお団子と花。コーディリエラの自然と、パンデミックで流行した観葉植物栽培のイメージを料理に取り入れた、「すべて食べることができます」という創作料理だった(しかし、正直あまり食欲はわかない)。
そのほか上位で注目したのは、観光エリアにあるコンドミニアム「Bristle Ridge」の中でカフェを営業するJKM Food Haus。コーディリエラの鶏料理をアレンジした「ビナルテク・ナ・マノクBinartek Nga Manok(酔っ払い鶏の意味)」で4位入賞を果たした。女性シェフらしい繊細な盛り付けで、ワイルドな山岳民族の郷土料理を美しく演出し、審査員をうならせた。
5位には昨年パンデミック中に開店したばかりの食堂「Eat’s Johnny」のコーディリエラ・ラーメンが食い込んだ。山岳地方の棚田で作り続けられてきた赤米を練りこんだ麺に、先住民族が食糧保存のために作っている燻(いぶし)豚肉「キニイン」をチャーシュー代わりにトッピングしたオリジナル・フュージョン麺料理だそうだ。
SMバギオでのフードフェアと郷土料理ドキュメンタリー配信
コンペに続いて、SMバギオで行われた「マガン・タク!」フードフェアには、シェフ・コンペに入賞した3つのレストランに加え、コーディリエラ・ベントー(弁当)のLe Cusina Den、コーディリエラ産コーヒーの専門店のTamtam Café2600ph、そして私たちのYagam Coffeeを提供するNest Coffee &Roastersが招待されて出店した。いまだ人出が戻らないSMバギオだが、観光省の肝いりで開催されたイベントは、つかの間の山岳地方の旅気分を味わいたい人、懐かしい故郷の味を探しに来る山岳地方出身の人たちでにぎわった。
2年前のイベントのように、山岳地方から郷土料理自慢のお母さんたちの参加がなかったのは寂しい限りだ。その代わりに、観光省のビデオ撮影隊によるコーディリエラの郷土料理のドキュメンタリー「Cordillera Culinary Journey 」が、6つの州ごとに編集されてフェイスブックで公開されている。なかなか興味深いので、つかの間の山岳地方のグルメな旅をビデオで楽しんでほしい!
環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。
Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク https://cordigreen.jimdofree.com/