マカティの年季の入ったコンドミニアムに住んで約5年。さえない一人暮らしなのだが、同居する「輩」がいる。ゴキブリやハエやクモといった虫たちだ。勝手に住み着いて、しかも家賃を払っている私に不快な思いをさせ、定期的に駆除製品を買わせるという失礼極まりない輩である。だが、同居というか訪問者というか、その姿を見ると、こちらが歓迎したくなるのもいる。ヤモリである。
私は小さいころから日本で「ヤモリは『家守』と書いて、家の守り神」と言い聞かされてきたせいか、海外で暮していてもヤモリを見ると「この家は守られている」と妙に安心する。シンガポールにいた時、コンドミニアムの大家がヤモリを見つけると「壁に糞を付ける」といって駆除していたのを見て、ところ変わればヤモリの扱いも変わるものだと嫌われる守り神を哀れに思った。
フィリピンのヤモリはカラフル?
オンラインの翻訳で調べると、タガログ語でヤモリはトゥコ(Tuko)と出てきた。しかし、トゥコを写真で見ると、毒々しく派手な色をしていて、大きい。ヤモリというよりもトカゲのようで、こんなのが家に出たら困る。私のコンドに訪ねてくる茶色というかグレーのような地味な体色で、せいぜい5〜6センチのヤモリとは違う気がするのだが・・・・・・。同僚に聞くと、ハウスリザード(House Lizard)、ハウスゲッコー(House Gecko)、さらにブティキ(Butiki) という名前も教えてくれた。それらを調べて写真を見ると、確かにおなじみのヤモリである。
ちなみにトゥコは、フィリピンでぜんそくやエイズに効くという言い伝えがある。どんなふうに服用するのかは知らないが、2011年に保健省が科学的な根拠はないと声明を出したことがある。またトゥコの大型のものは、2千万米ドルで取引されたこともあるらしい。
ついでにネットでフィリピン、ヤモリと検索すると、在留邦人の方々がヤモリについていろいろ書いておられる。フィリピン生活とヤモリはなかなか深い関係があることがうかがえた。鳴き声を聞くと幸運になるという言い伝えもあるそうな。
意外なヤモリの中国名
今回ヤモリについて調べて、最大の発見は中国語でヤモリを「壁虎(Bìhǔ)」と書くと知ったことだ。壁の虎。かっこいい! 壁を這い、すばやく虫をとらえて食べることから付いた名前だろうか? しかも、中国ではこの発音は災いを避ける、交通安全、福来る、富来るという意味の発音と似ているということで、ヤモリは縁起がいい生き物らしい。
ますますヤモリには私の部屋に来てほしいと思う。願わくは、壁の虎の名に恥じぬように、虫たちを食いまくってほしいものだ。(T)