みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? マニラと言えば、フィリピンの首都。そしてメトロマニラの中にマニラ市という市もあるということは、皆さんご存知だと思います。では「マニラ〇〇」と呼ばれる「もの」となると、いくつ挙げられますか? 今回はマニラに由来する名前がついた物のお話です。

 

 

1. マニラ麻 (Manila hemp, abaca)

 

 マニラと言えば、まず思いつくのはマニラ麻です。繊維を用いるので「麻(英語ではhemp)」と便宜的に呼ばれますが、麻とは全く関係のないバショウ科バショウ属の植物ですからバナナの親戚のようなもの。フィリピンではabaca(アバカ)と呼ばれます。ミンダナオ島ダバオを中心に栽培され、ビコール地方でバッグなどに加工されるのに、マニラ麻と呼ばれるわけは、マニラで取り引きされ海外へ輸出されてきたからです。昔は日本人入植者も大規模栽培に関わっていたことで知られています。耐水性があり軽いため、昔は主に船舶用のロープに使われました。日本の紙幣にも混ぜられており、誤って洗濯しても破れないのはこのマニラ麻のおかげなのです。

 

 

2. マニラ・ペーパー (Manila Paper)

 

 フィリピンでは模造紙のことを「マニラ・ペーパー」と呼びます。日本の模造紙とは違う黄色いゴワゴワした紙です。これがマニラ・ペーパーと呼ばれるのは、昔はマニラ麻が材料に含まれていたからです。また、同じく昔マニラ麻が使われていた物には紙のファイルフォルダーや書類用の茶封筒があります。フィリピンではこれらを「ペーパーフォルダー(Paper Folder)」「ブラウン・エンベロープ(Brown Envelope)」と呼びますが、米国では「マニラ・フォルダー(Manila Folder)」「マニラ・エンベロープ(Manila Envelope)」と呼びます。現在ではマニラ麻より安価な木片などの繊維で作られるため、耐水性に乏しく、水に濡れるとすぐに破れてしまいます。きっとマニラ麻が使われていたころは、もっと丈夫だったに違いありません。

 

 

3. マントン・デ・マニラ (manton de Manila)

マントン・デ・マニラを肩にかける女性(Woman with Manton de Manila by Juan Luna, 1880s, Wikimedia Commons Public Domain)

 

 

 マントン・デ・マニラ (マニラのショール) とは、女性が肩からかける大判のショールのことです。絹の布地に色鮮やかな花などが刺繍され、縁にフリンジ(紐を垂らす飾り)が付いています。現在でもフラメンコダンサーなどが衣装やアクセサリーとして使っているのを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。フィリピンでは昔からアランパイ(alampay)、パニュエロ(panuelo)と呼ばれる四角い布を三角に折って肩にかけるショールが一般的に使われており、これがマントン・デ・マニラの原型と言われています。これらは本来マニラ麻やピーニャ(パイナップル繊維)で作られていましたが、中国で絹のものが作られ、色とりどりの刺繍が施されるようになりました。

 

 

 中国製の絹のショールの対価は、スペインがメキシコから得た銀で支払われていたため、銀がどんどん失われていくのに困ったスペインは、1535年には絹織物の輸入を制限、1718年には「絹禁止令」を出しました。しかしマニラの仲介業者から苦情が出たため1734年には解除され、絹製品は必ずマニラを経由しなければ世界へ輸出できないことが定められました。その結果このショールが「マントン・デ・マニラ」と呼ばれるようになり、ヨーロッパや中南米へと輸出されていきました。昔はマニラが世界貿易の中心地だったので、「マニラ」と言うだけで異国情緒を呼び起こすブランド効果もあったのかもしれません。

 

 

 これらの品々はマニラで作られた物ではなく、昔マニラを経由したり、マニラ麻を使ったりしていたために「マニラ」と名付けられ、その名が残ったものです。現在のパンデミックでも言えることですが、こういった物の名前の背景からも、世界は貿易や人の往来を通してつながっていること、歴史の延長線上に現在があるのだということが感じられますね。

 

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia