『恋愛中毒』
山本文緒 著(角川文庫)
名手による恐ろしき恋愛小説
東京の編集プロダクションに勤める「僕(井口)」と、その同僚の女性「私(水無月)」の複数語りのスタイルでストーリーが展開する恋愛小説。正確には恋愛はテーマであって、ラブストーリーといったジャンルの小説ではない。むしろ人に恋をすること、人を愛することの「恐ろしさ」が読み進むうちに鬼気として迫って来る。ホラー小説のような展開で物語は進む。
渋谷の怪しげな芸能プロダクション社長ら個性の強い登場人物を交えながら、「僕」と「私」の秘密が語りの中で徐々に明かされていく。実にスリリングな小説だ。「どうか、どうか、私。この先の人生、他人を愛しすぎないように。愛しすぎて相手も自分もがんじがらめにしないように」。「私」はそう誓うが、恋愛中毒はなかなか収まらない。エンディングも見事で、恋愛に関する女性の心の生々しさを書かせたら右に出る者はないと思われる山本文緒の代表作といえるだろう。
Renai Chudoku
(Loveholic) by Fumio Yamamoto is a romance novel, but it’s also like a horror story, which makes us realize how frightening being in love is…. The title literally means ‘Addiction to Love’.
石山永一郎
Eiichiro Ishiyama
南東舎書店店主。
「 仕事を離れて読む現代小説では、男性作家よりも女性作家の書くものがなぜか好きで、山本文緒、恩田陸、小川洋子などをよく読みます。女性作家の作品の方が、自分の仕事と全く関係がないテーマが多く、気楽に読めるからかもしれません」