『吾輩は猫である』
夏目漱石 著(新潮文庫) 

 

年齢と環境で変わる読後感

 

 小学生高学年の時、少年少女文学全集で読んだのがこの作品との最初の出会いでしょう。中学の時には巻末の解説を首っ引きに読破した記憶がありますが、達成感よりも難行苦行からの解放だったような気がします。全編を貫くタテ糸は軽妙洒脱ですが、ヨコ糸に織り込まれた和漢洋の哲学、文化、歴史の厚みには辟易しました。しかし、あまり再読しない私が66年の人生で10回近く読んでいます。そして、年齢や環境によってこれほど受け止め方が異なるものかと毎回驚かされます。

 

 去年の10月から11月にかけてYouTubeで本作品の朗読を聞いた時は、苦沙味先生を奥さんや鼻子夫人らが自分の意見や主張を堂々と披露してやり込める下りが気になりました。明治という江戸時代を引き継ぐ精神的な背景を考慮すれば、かなり特異といえます。本作が新聞に掲載されたのは明治39年。10年後には大正デモクラシーや女性解放運動が花開きます。既にこの時期に伏流水のように脈々たる流れが始まっていたのでしょうか?

 

 

I Am a Cat
A Japanese classic novel by Soseki Natsume. The cat with no name narrates the story about the lives of Japanese people about 120 years ago.

 

 

 

 

 

蝶谷正明
Masaaki Choya
セブ日本人会相談役、セブ日本語補習校運営委員長。東京生まれ横浜育ち。本誌で「セブ通信」連載中。
「最近は読書三昧で漱石と司馬遼太郎をよく読んでいます」