『薬菜飯店』
筒井康隆 著(新潮文庫)
究極の料理の描き方
特にSFファンでもなく、筒井康隆といえば「七瀬三部作」くらいしか読んだことがなかった。しかし、30年ほど前に読んで病みつきになってしまったのが、この短編。手放しては、無性に読みたくなって新たに買う。この繰り返しである。
簡単に言えば、男が神戸でふらりと入った中国料理店で、薬効があるという料理を味わう話。店主による目や鼻に効く珍奇な食材についての説明は、中国に本当にあるのかもと思ってしまう。なんと説得力があることか。食べ物について書くことは難しいといわれるが、作品中に出てくる料理がいかに美味か主人公の男を通じて伝わってくる。そして、男が経験する強烈なデトックス作用の描写はグロく、さらにエロい展開も待っている。
料理を題材にした小説やエッセイはあるけれど、言葉によるすさまじい描写と爽快な(?)読後感を味わえるのは、この作品が随一。皆さんは読んだ後に中国料理を食べたくなるかどうかはわからないが、私は週末、ビノンドで中華を食べようと思う。
Yakusai Hanten
A fiction short story by Yasutaka Tsutsui. A man drops by a Chinese restaurant and has grotesque and ecstatic experiences while eating Chinese medicinal food.
時澤圭一
Keiichi Tokisawa
ナビマニラ編集長。富山県出身。
「漱石の『夢十夜』を再読したいと思っていたら青空文庫にありました。柳田国男の『遠野物語』を久しぶりに読みたいと思ったら、こちらも青空文庫に! 紙の本の信奉者ですが、ネットで読むのもいいものです」