作品を読み解きながら
総合的な国語力を育てる
国語・作文教室には、マニラ日本人学校に通っている児童・生徒のほかに、インターナショナルスクールや現地校に通われているお子様も多くいます。そのため日本語で「書く」ことの強化にも力を入れています。
授業で取り入れている「読書感想文」は、書くだけでなく、文章を読み、共感したり自分の考えと照らし合わせたり、描写の奥にあるものを読み解いたりという複雑な作業を必要とします。そういう意味で、「書く」だけではなく、読解力を含めた総合的な国語力を養うのにとても役に立ちます。今回の課題作品『盆土産』は、「高度成長期の出稼ぎと家族」という今の児童・生徒にとってはなじみがないであろう日本の歴史の一面に触れる機会も与えてくれます。
課題作品:三浦哲郎『盆土産』
昭和40年頃の東北の農村を舞台にした物語。出稼ぎの父が盆に帰郷し、苦労して「えびフライ」を土産に持ち帰る。祖母と姉と3人で暮らす主人公の少年は、父と土産のえびフライで幸せな一夜を過ごすが、母の墓参りをすませると、父はすぐに東京へ戻っていく。家族団らんへの少年の哀しい憧憬が見事に表現された作品。
「盆土産」最も印象に残っている場面
数馬 花(中学1年生)
私の最も印象に残っている場面は、主人公が最後に「えんびふらい」と言ったところです。
なぜなら私は、主人公が言うつもりでなかった「えんびふらい」には、父親とまた別れてしまう悲しさと不意にしゃくりあげそうになったものをおさえる気持ちが込められていると思ったからです。そして、「えんびふらい」と言えば、また父親が東京から帰ってきて、家族いっしょにえびふらいを食べられて父親と会える、そういう主人公の気持ちの表れだと思うからです。
この場面は主人公とその家族にとってえびふらいが共通の思い出を作ってくれた大切なものだということを表しているのだと思います。
別れの悲しさとまた早く会いたいというどうしようもない主人公の気持ちを「えんびふらい」という言葉を通して読者につたえているのではないかと考えます。
[評] とても素直に、そして豊かに主人公の心情に共感している数馬花さんの作文です。「授業中、しっとりと落ち着いた声でまるでナレーションのように音読してくれる花さん」(担任談)。彼女のやさしさを感じます。
まにら新聞 国語・作文教室 運営責任者
浅井敢次郎(あさい かんじろう)
鳥取県出身。神戸大学教育学部卒業。大阪で中学校の社会科教諭として38年間勤務。日本語教育能力検定試験に合格後、オンラインでフィリピンやベトナムの人たちに日本語を教えるボランティア活動を継続中。2022年3月からマカティ在住。趣味はバドミントンを教えること、バイクで日本各地の旅行、PCの組み立て、登山、スキーなど。