フェスティバルの見本市

 

 雨季も終わり、バギオ市とコーディリエラ山岳地方は11月から来年4月までの本格的な観光シーズンに突入した。保守的な山岳地方はバギオ市での観光イベントの混雑具合や感染対策の様子をうかがっていたが、10月の先住民族月間をきっかけに、本格的に観光客の受け入れに舵を切った。そして10月15日、観光シーズンのキックオフイベント「コーディリエラ・フェスティバル・オブ・フェスティバル・ショー (Cordillera Festival of the Festival Shows)」が開催された。コーディリエラ地方のフェスティバルの見本市といったところだ。

 

 今年初めて行われたこのイベントには、コーディリエラ山岳地方6州の代表的なフェスティバルが招待され、バギオ市の目抜き通りセッションロードをパレードし、マーケットの向かいにあるピープルズ広場で民族色を取り入れたダンスを披露した。

 

 

「コーディリエラ・フェスティバル・オブ・フェスティバル・ショー」参加フェスティバル

「コーディリエラ・フェスティバル・オブ・フェスティバル・ショー」参加フェスティバル
アブラ州:ラガ・フェスティバル Laga Festival
アパヤオ州:サヤム・フェスティバル Say-am Festival
バギオ市:パナグベンガ・フェスティバル Panagbenga Festival
ベンゲット州:アディバイ・フェスティバル Adivay Festival
イフガオ州:ゴタッド・アドゥ・イフガオ Gotad Ad Ifugao
カリンガ州:ブドン・フェスティバル Bodong Festival
マウンテン州:ランアイ・フェスティバル Lang-ay Festival

 

 

 

アブラ州:ラガ・フェスティバル Laga Festival

 

 

 

バギオ市:パナグベンガ・フェスティバル Panagbenga Festival

現代風にアレンジされたバギオのダンス。

 

 

イフガオ州:ゴタッド・アドゥ・イフガオ Gotad Ad Ifugao

ユネスコ世界文化遺産の棚田で知られるイフガオ州のイーグル・ダンス。

 

 

 

カリンガ州:ブドン・フェスティバル Bodong Festival

 

 

 

マウンテン州:ランアイ・フェスティバル Lang-ay Festival

伝統の文化を紹介するマウンテン州ランアイ・フェスティバル・チーム

 

 

写真提供:マウンテン州観光省

 

消えゆく伝統を守る

 

 

 元来山岳地方の祭りは、先住民のコミュニティーで豊作を祝う収穫感謝祭や婚礼などを目的に行われてきた。豚や鶏を供儀し、ガンサと呼ばれる黄銅製の銅鑼(どら)など民族楽器を奏でながら踊り、民族に伝わる詠唱を行う。民族、部族によってダンスのステップも、ガンサのリズムも詠唱の節も異なり、コミュニティーの中で受け継がれていくものだった。

 

 

 しかし、グローバリゼーションの波は山岳地方の山奥深いコミュニティーにも容赦なく押し寄せた。祭りを取り仕切る人はいつの間にかいなくなり、最も重要であるはずの収穫感謝祭でさえ姿を消したところも多い。そこで、地域の伝統文化の保全のために州や地方自治体政府が始めたのが、各地の伝統芸能のショーケース的な役割を果たすフェスティバルである。コミュニティーの代表がそれぞれの民族の衣装を身に着けて伝統のダンスをしながらパレードし、最後は街中の広場で政府高官を前に踊りを披露するのが定番。参加する生徒や住民が晴れの舞台に向けて練習を重ねることで、伝統芸能の継承に結び付くことをめざしている。

 

 

観光振興と伝統継承

 

 

 今回バギオで行われた「コーディリエラ・フェスティバル・オブ・フェスティバル・ショー」は、コーディリエラ地方の観光省の主催だ。行政の主導でフェスティバルを観光資源として活かし、マニラをはじめとする都市部からの観光客誘致につなげようという新しい試みである。試験的に行われた今回は、州政府の職員や大学のダンスサークルのメンバーなどがダンスを披露した。

 

 

マウンテン州チームの振付も担当したベントール・ガナドさん。 (写真提供:Atuvan Photography and Films)

 

 

 マウンテン州から参加したベントール・ガナドさんによると、「急に決まったイベントで、マウンテン州のランアイ・フェスティバルを代表する躍り手は州政府職員の中から選ばれました。練習期間はほとんどなかったのですが、私はコミュニティーの祭りの参加経験があったので、乗り切れました」。そして、「今回は観衆の多くはバギオの人たちでしたが、モダンでスタイリッシュな若者たちのダンスより、私たちのような民族色を打ち出した舞踊が好評だったと思います」と振り返る。

 

 伝統芸能の継承と観光客誘致をめざすイベントが、今後どんな展開を見せてくれるか楽しみだ。

 

 

 

 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/