みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 皆さんはBulacan(ブラカン)、Cagayan (カガヤン)、Baclaran(バクララン)の共通点は何だと思いますか?州の名前?ブラカンとカガヤンは州の名前ですが、バクラランは違いますね。地名? 確かにどれもフィリピンの地名ですが、他にも共通点があるのです。実はこれらはどれも最後が-anで終わっている地名です。
接尾辞-an/-han
-anは場所を表す接尾辞で、元になる言葉(語根)に付いて「(特定の場所で)~する」という動詞や「(何かが)多くある場所」や「(何かを)する場所」を表す名詞を作ります。例えばpalay「米」に-anが付けばpalayan(パラヤン)「田んぼ」という名詞になります。この-anは子音や声門閉鎖音(日本語の小さい「っ」のように喉の所でつまる音)の後は-anのまま付きますが、それ以外の母音に付くときは-hanに変わります。例えばマンゴー(mangga)が植えてある所はmanggahan(マンガハン)、パイナップル(pinya)が多く植えてある所はpinyahan(ピンニャハン)となります。「何かをする場所」の例では、kain「食べる」という語根に-anを付ければkainan(食べる場所、会食)という言葉になります。
Bulacan(ブラカン)
マニラ首都圏の北に位置するブラカン州の地名の由来はbulak(綿)とする説とburak(沼)だとする説があります。bulakはタガログ語で綿やカポック(パンヤ綿)という意味で、綿の産地だったという説や、カポックの木がたくさん生えていたからという説があります。またブラカンは元々低地で湿地帯のためburak「沼・湿地」のある場所burakanと呼ばれていたものが、のちにrがlに変化したという説もあります。地名の綴りがkではなくcとなっているのは、スペイン人がフィリピンの地名を表記したときにcを用いたのがそのまま残されているためです。
Cagayan(カガヤン)
こちらも同様にCがそのまま使われています。ルソン島の北東部にあるカガヤン州は、フィリピン最長の川「カガヤン川」の下流にあるので、この名で呼ばれるようになりました。kagayは昔のタガログ語やオーストロネシア諸語で「川」を表す言葉で、接尾辞-anを付けて「川のある場所」あるいは川そのものをkagayanと呼んだのです。つまり「カガヤン川」というのは川を「川川」と呼んでいるようなもの。ミンダナオ島にも同名のカガヤン川(またはカガヤン・デ・オロ川)があり、その流域の都市はCagayan de Oro(カガヤン・デ・オロ)市と名付けられています。”de oro”はスペイン語で「金の」という意味なので、カガヤン・デ・オロは「金の川」ということですね。
Pangasinan(パンガシナン)
こちらは-anだけではなく接頭辞pang-も付いてちょっと複雑です。pang-は用途や目的を表す接頭辞で、語根はasin「塩」、そこに場所を表す接尾辞の-anが付いているので「塩のための場所」つまり「塩田のある場所」と解釈することができます。
Baclaran(バクララン)
マニラ首都圏パラニャケ市の北側にあたるこの場所は、バクララン教会やその周りの市場が有名です。これも-anが最後に付いた地名ですが、元になる語根は何だと思いますか?答えは”baklad”(バクラッド)です。dで終わる語根の後に母音で始まる接辞が付くとdがrに変わるというルールがあるので、bakladに-anが付くとbaklaranになります。bakladは魚を引き込んで捕る仕掛け「魞(エリ)」(小型定置網)のことで、baklaranは「エリがたくさんある場所」という意味です。バクラランに隣接するロハス大通りは埋め立て地で、昔はこのあたりから海だったのです。以前はマニラに着く飛行機からもマニラ湾に多くの四角いエリが見えていたものでしたが、最近は撤去されてめっきり少なくなりました。 普段何気なく見ている地名もこのように歴史的背景や文化、地理的な特徴などが垣間見れることが多く、興味深いですね。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia