みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 典型的な日本人の名前と言えば「山田太郎」が使われるように、各国に代表的な名前があります。アメリカ人は「ジョン・スミス」、イタリア人は「マリオ・ロッシ」だそうで、フィリピン人は「フアン・デラクルス」(Juan dela Cruz)が使われます。一体なぜこの名前が典型的なフィリピン人像になったのでしょうか。
フアン(Juan)とは?
Juanはスペイン語の読み方なのでJuは「フ」と読みます。「フアン」(Juan)は英語ならJohn(ジョン)で、聖書に登場する「ヨハネ」にあたります。現代のフィリピンではフアンという名前はあまり見かけませんが、ジョンはよくある名前ですね。カトリックの多いフィリピンでは聖書に出てくる名前を子どもに付けるのが一般的ですし、昔は聖書に出てくる名前でないと教会で洗礼を受けられなかったそうです。
デラクルス(dela Cruz)とは?
「デラクルス」の「クルス」は十字架のこと。delaのdeはスペイン語で「~の」という意味で、laは女性名詞に付ける定冠詞なので「デラクルス」は「十字架の」という意味です。つまり「フアン・デラクルス」は、「十字架のフアン」という意味になります。デラクルスはフィリピンで最も多い名字だと言われています。
名付け親と人物像
一般的なフィリピン人の名前として「フアン・デラクルス」を初めて使った人は、1900年代前半にフィリピン・フリープレスという新聞を発行していたスコットランド出身のロバート・マッカロック・ディック(Robert McCulloch Dick)でした。この名前を選んだ理由は、指名手配中の被疑者や裁判の被告人の名前として新聞でよく見かけたからだとか。それだけ一般的な名前だったのでしょう。そしてフアン・デラクルスのイラストはSalakot(サラコット)と呼ばれる笠をかぶり、Kamisa de Chino(カミサ・デ・チーノ)というシャツを着た人物として描かれました。現代でもフアン・デラクルスと言えばフィリピン人が思い浮かべるのはこの服装か、バロン・タガログにサラコットをかぶった人物像です。
フアン・タマッド
さて、フアンはフアンでもJuan Tamad(フアン・タマッド)という「怠け者のフアン」もいます。民話の登場人物で、フアンはいつも寝てばかり。グアバの実が食べたくても取るのが面倒だと、口を開けて実が落ちてくるのを待っていたそうです。日本の「三年寝太郎」とよく似ていますが、ここからが違います。「三年寝太郎」は、突然起きて岩を転がし、田んぼに水を引き入れ、村を干ばつの危機から救ったそうで、みんなのために頑張る一発逆転のヒーローです。対するフィリピンの「フアン・タマッド」は美しいMaria Masipag(マリア・マシパグ)「働き者のマリア」に注意され、マリアの心を射止めるため働き者になるのです。フィリピン男性にありがちな(?)印象を受けますが、その決意は長続きしたのだろうかと、ちょっと心配になりますね。
広告にも登場するフアン
そんな「フアン」の名を効果的に使っているのがフィリピンの航空会社セブ・パシフィックのスローガン “Let’s Fly Every Juan!”です。 “Every Juan(すべてのフアン)”と “Everyone(全員)”をかけて、「全てのフアン(つまりすべてのフィリピン人)みんな飛ぼう!」と、庶民が気軽に乗れる航空会社というイメージを打ち出しています。「フアン」と聞けば「フィリピン人」のことだと誰もが想像できるからこそ成立するスローガンだと言えるでしょう。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia