ビール、ジンが進む酒の友
豆腐を使う唯一のフィリピン料理!?

 

 

 小皿に入って出てきて、酒のつまみにピッタリの料理はフィリピンではプルータン(Pulutan)と呼ばれる。シシグこそキング・オブ・プルータンと言われたら、確かにうなずくしかないのだが、シシグはすでにフィリピン料理を代表するメニューの1つとして有名かつアツアツの鉄板に載って出てくるので、もはやメインディッシュの趣がある。

 

 

 日本で居酒屋の定番メニューでありながら、決して夕食のメインディッシュにはならないであろう揚げ出し豆腐のような存在のフィリピン料理は何か?それこそ今回紹介するトクワバボイである。トクワは福建語のフィリピン訛りで豆腐のこと。バボイはご存じ豚肉だ。ローカルフードで、豆腐を使うフィリピン料理は恐らくこれだけではないだろうか? 誕生の地はカビテ州という説が有力で、最初の名前はキラウィン・ナ・タインガ・ナン・バボイ(Kilawin na tainga ng baboy)、すなわち豚の耳のキニラウ。元々は豆腐が入っていなかったが、中国料理の影響を受けて豆腐が入るようになり、名前も変わって今に至っている。

 

 

 トクワ・バボイの豆腐は、揚げだし豆腐で使われるソフトな絹ごしではなく厚揚げ。日本の厚揚げよりも硬く、乾燥した感じ。豆腐の角で頭をぶつけても日本の豆腐なら大丈夫だろうが、このフィリピンのトクワだったらひょっとして……と思わせるくらい豆腐にしては硬い。そんなトクワとゆでた豚バラまたは耳を一口大に切り、醤油、酢、カラマンシなどで味付けして混ぜれば出来上がり。サウサワン(ディップソース)に付けて食べる。

 

 トクワ・バボイには、マニラ、イロカノ、ビサヤバージョンなどが存在するという。マニラ版はバラ肉を使い、豚肉をメインに味わえるようにつくる。イロカノ版は、スカン・イロコ(サトウキビ酢)という地方特産の酢を使う。ビサヤ版は、チチャロンを加える。

 

 いつか旅先でふらっと入ったローカルな店で、トクワ・バボイを頼んで地元の人とビールやジンを飲み、話を楽しむ。そんな自分を想像しながら、今回の記事はこれでやめトクワ(失礼しました)。(T)

 

 

(初出まにら新聞2024年1月11日号)