東京の若者が集う街、原宿や渋谷から発信される「原宿スタイル」と呼ばれる独特のファッションは世界でも注目を集めている。フィリピン人のファッションデザイナーでメイクアップアーティストのバイオレット・オカンポさんはそのスタイルに魅了された1人。自身のブランドを持ち、フィリピンと日本のファッションの懸け橋的存在となることを目指す彼女に、ファッションへの思いや今後の目標について聞いた。 (取材・文:荒田玲音)
ー服のデザインを始めたのはいつから?
2019年の9月ごろです。コロナ禍の期間にデザイン画などを描いて、2021年に初めて自分のTシャツコレクションを販売しました。このときはオンラインのみでの販売で、ツイッターでの宣伝や歌手の友人、インフルエンサーたちに協力してもらってプロモーションを行いました。大学卒業後はもともと会社でエンジニアをしていたんですが、ファッションへの情熱は当時から強く、2014年ごろからメイクアップアーティストとして、主に友人や親戚のメイクをしていました。その後10年間続けた会社員をやめて、メイクアップアーティストとデザイナーを本業にしたという流れです。
ー日本の影響を受けているのはなぜ?
小さい頃は、母親が買ってくる服をそのまま着ていただけで、そこまでこだわりはなかったんです。しかし小学生のころに日本の文化に出会ってから変わりました。インスタグラムに「東京ファッション」や「原宿ファッションウォーク」というようなストリートスナップのアカウントがあって、その投稿から日本の一般の人たちのファッションを知りました。個性的で人と異なる組み合わせをし、ファッションのパターンは多種多様です。中でもカラフルで柄を多く取り入れたファッションが気に入り、これこそ私のスタイルだと気づきました。日本のギャルも好きですが、着物の模様なども好きで、とにかく日本が大好きなんです。
日本にはこれまで6回行ったことがあるのですが、初めて日本を訪れたときに原宿で見かけるような派手なスタイルは実際は日本でも一般的でないことを知り、驚いたのを覚えています。
ーフィリピンと日本のファッションの違いとは?
フィリピンは暑い国ということも影響し、Tシャツに短パンまたはスカートスタイルが一般的です。一方の日本は四季がありますから、2枚着て重ね着にしたり上着を着ることで、シンプルなファッションが好きな人でも必然的にレイヤードができ、おしゃれに見えるという点で、フィリピンと大きく異なります。ただフィリピンも日本もシンプルで、あまり派手でない色を好む人が多数派という部分は共通しているように思います。東京や大阪の一部のエリアを除いて、私が好きな派手なスタイルの人はそこまで見かけません。
また、日本とフィリピンにおいて、特に若い女性におけるファッションの違いは、文化的意識の違いから来ているのではないか、と思っています。例えば、フィリピンでは暑さのせいもあってか、女性が胸元が開いた服を着ることは比較的受け入れられています。しかし日本では、胸元を強調した服はあまり好まれません。それは胸元を見せる恥ずかしさや周りの人に対する配慮などから来るのだと思いますが、一方で女子高生のような若い女の子たちは下着が見えてしまいそうなほどの短いスカートを普通に履く。胸元が開いた服はダメで、極端に短いスカートはどうして受け入れられているのだろう、と疑問に思ったときに、もしかしたら日本のお辞儀文化が影響しているのではと考えました。個人的な意見ではありますが、文化がファッションにも影響していると考えると、面白いですよね。
ーブランド「ウベ・キャンディー」について教えてください。
2021年に立ち上げたファッションブランドです。ブランド名の「ウベ(Ube・紫芋)」は幼少期から好きな紫色を指していて、私自身を表しています。「キャンディー(Kendi)」はフィリピン語で飴のことですが、私の好きなこと、つまりデザインをすることを意味しているんです。またウベもキャンディーもフィリピン語であることが、私がフィリピン人であるということと、フィリピン伝統のデザインを取り入れたこだわりを表しています。
日本のポップカルチャーやマキシマリスト(好きなものに囲まれて生活することで幸福を得る人、またそのライフスタイル)に影響を受けていますが、フィリピン伝統衣装のフィリピニャーナを現代化したデザインなども取り入れ、2カ国から影響を受けているのが私なりのデザインです。これは意図してできたコンセプトというわけではなく、私自身が好きなものを取り入れていたら自然と日本とフィリピンのミックスになりました。
立ち上げから2カ月後の2021年11月、BGCで初のポップアップストアを出店したところ、全ての商品を売り切ることができました。今後はフィリピンでポップアップストアを定期的に開催しながら、店舗出店も視野に入れたいです。また、日本でもコラボレーションなどのチャンスがあればいいなと思っています。ウベ・キャンディーに特定の客層ターゲットはありません。どんな人でも、いくつになっても新しいスタイルを発見して、フィリピンにもっと個性的なファッションを楽しむ人が増えてほしいと思っています。
(初出まにら新聞2024年4月20日号)