ビーフとニンニクのソテー
出自は不詳のフィリピン料理
大衆食堂カレンデリアに並んでいることはあまりない。アドボやシニガン、シシグは大抵のフィリピン料理店のメニューにあるが、この料理を扱っていない店も多い。なのでビーフ・サルピカオと聞いて知らない人もいるだろう。要はひと口大に切った牛肉とニンニクのソテーである。
味付けは醤油やウスターソースにコショウといたってシンプルゆえに、外食のメニューというより家庭料理として親しまれていて、知名度の浸透に苦労しているのかも。とはいえ、ビールのおつまみに良し、メインディッシュに良し、ご飯にもピッタリ合う優秀な一品である。ニンニクがガツンと効いていて、疲労回復やスタミナ補給にも良さそうだ。
サルピカオという名前なのでスペイン生まれなんだろうと思っていたら、もっと複雑だった。1つはフィリピン発祥の料理で、名前はスペイン語で振りかける、(液体が)はねるという意味のSalpicarに由来するという説。次にポルトガル語で味付け肉という説。ポルトガルにサルピカオと言うソーセージがあり、なぜかブラジルではチキンサラダのことをサルピカオと言うのだそうである。
フィリピンで誰がどんな思いを込めてビーフ・サルピカオと名付けたのか? 実はこの料理、フィリピン発祥と言いつつ、フィリピンのどこで生まれたのかもはっきりせず、ビーフ・サルピカオを名物に掲げる都市や町も見つからない。ウィキペディアにも解説が載っていない。今なら、元祖ビーフ・サルピカオを名乗っても誰も文句を言わないのではないか。
本当にローカルフードと呼べるのか不安になってくるが、ちゃんと周りのフィリピン人はれっきとしたフィリピン料理だと言い、何か特別な日などに家で食べると教えてくれる。鶏肉や豚肉より高価な牛肉を使うので、特別な料理扱いなのだろうか。
マニラでは今、牛丼がフィリピン人の外食オプションとして定着しつつある。ビーフ・サルピカオをライスにトッピングしてフィリピン版牛丼として売り出したら、ビーフ・サルピカオが一気にメジャーになりそうな気がするのだが、いかがだろうか?(T)
(初出まにら新聞2024年3月7日号)