肉を食べない聖週間に活躍
米国経由の中華系野菜料理

 

 聖週間の聖木曜日(Maundy Thursday、洗足木曜日)はキリストが処刑前に弟子たちと最後の晩餐をした日だ。この日はフィリピンの敬虔なクリスチャンの方々は肉を食べない。精神を浄化するためという人もいれば、聖週間に悪魔が豚の中に逃げ込むので豚肉を食べるなという人もいる。こんな感じで豚肉だけでなく、牛肉も鶏肉も食べてはいけないことになっているが、魚はOKなんだそうだ。

 

 

 

 


 筆者はクリスチャンではないが、そういえば日本でミッション系の学校に通っていたこともあると思い出し、郷に入っては郷に従え、マニラにあってはローカルに従えとの教えを守るべく、今年の聖週間中は肉を食べないことにした。そして、慢性野菜不足をここぞとばかりに補おうと、フィリピン料理では貴重な野菜料理、チョプスイを食べた。

 

 


 マカティで行きつけのフィリピン料理店のチョプスイはレバーが入っているので、入れないでくださいとお願いした。店の人にレバーが嫌いな客なんだなと思われただろうか。宗教上の理由といったほうがよかっただろうかと悶々としているうちに、テーブルに届いた。

 

 

 チョプスイは日本でもおなじみの野菜炒めや八宝菜といったところで、その名前からして中華料理が先祖だと想像できるが、調べてみると複雑であった。

 

 


 まずは、生まれは米国で、1896年にニューヨーク市で中国の外交官が米国人と中国人をもてなしたとき、双方の口に合うように料理人につくらせたという説。他にも1849年、ゴールドラッシュに沸くサンフランシスコで酒に酔った採掘者のグループが、閉店間際の中国料理店にやってきて、何か食べ物をつくってくれと頼んだ。疲れていた店主は前の客が残して行ったものを集め、そのまま調理して出したところ採掘者たちに大ウケ。こうしてチョプスイが生まれたとする説もある。

 

 

 

 また、ある人類学者によると、広東料理にチョプスイ(杂碎 Tsap Seui)、いろいろな残り物を混ぜたという名前の料理があり、中国系米国人のシェフが広めたという。米国のチョプスイは麺が入っているが、19世紀に中国からの移民によってフィリピンにもたらされてから麺は取り除かれ、そのまま定着して今に至っている。もしチョプスイに麺が入ったままだったら、パンシット・チョプスイというフィリピン料理になっていたかもしれない。

 

 


 肉食を絶って数日しか経っていないが、禁断症状が出ることもなく、聖週間をクリアできそうである。肉を食べたいと思わなくなった自分。これも老化の一つなのだろうか。(T)

 

 

 

(初出まにら新聞2024年3月28日号)