フィリピンのローカル粥
故郷も中身も異なる3兄弟
フィリピンのローカル粥(かゆ)はルガウ(Lugaw)。そう覚えていたら、その後ゴト(Goto)というのも粥、さらにアロス・カルドも粥だと知った。フィリピンの地方によって異なる粥の呼び方なんだろうと思い込んでいたのだが、これら3つの粥はそれぞれ別物であった。
ルガウ:トッピングにネギ、揚げたニンニク片、ゆで卵など。肉は入れない。
ゴト:具に牛や豚の臓物を使った粥。正式名称はアロス・カルド・コン・ゴト(Arroz caldo con goto)。ゴトは元々福建語の牛肚(牛の胃)を由来とするタガログ語。
アロス・カルド:具に鶏肉を使う。ショウガを効かせた味付けで、米はサフランにより黄色。スペイン語でアロスは米、カルドはスープ、だし汁の意味。
ちなみに、コンジー(Congee)とポリッジにも違いがある。コンジーは米の形がなくなるまで煮込んだ粥のことで、ポリッジは米の形がまだ残り、透き通った汁がある粥のことをいうのだそうだ。ついでに、私の人生においてほとんど区別をしてこなかった日本のお粥と雑炊とおじやも違いがあるらしい。お粥は生の米を多めの水で炊いたもの、雑炊は炊いたご飯を洗ってぬめりを落としてから煮込んだもの、おじやはご飯を洗わずに煮たものと、調理法によって定義されている。
フィリピンのお粥3兄弟ルガウ、ゴト、アロス・カルドのうち、一番長い歴史を持つのはルガウである。米を水やココナツミルクで煮た食べ物として1613年の記録が残っており、スペイン統治時代以前に中国からの移民によってもたらされたとされる。このルガウをベースとして、具に肉を使ったゴトやアロス・カルドへと発展していったと想像できる。アロス・カルドは、その名前の通り、スペインの雑炊と呼ばれるアロス・カルドッソ(Arroz Caldoso)に由来するという説もある。ルガウやゴトは大衆的な食堂やフードスタンドでも売られているが、レストランになるとこれらよりアロス・カルドを出す率が高いような。
筆者にとってお粥といえば、日本では体調がすぐれないときに食べるものだった。それがシンガポールにいたときにホーカーのコンジーを朝食に食べるようになってから、粥にどっぷりとはまり、体調の良し悪しに関わらず、いつでもどこでも誰とでも食べるようになった。フィリピンに来てからももちろん、ローカルの粥をよく食べている。これからも病めるときも健やかなるときもルガウ、ゴト、アロス・カルドを食べ続けたいと思う。(T)
(初出まにら新聞2024年4月18日号)