名前に付いてはいるけれど
上海とは無関係な揚げ春巻き
路上の屋台に大衆食堂、レストランのメニューにもあり、スナックにご飯のおかず、酒のつまみとしても大活躍のルンピアン・シャンハイ。ローカルの同僚によると、フィリピン人が一番好きな食べ物なんだそうだ(アドボは? シシグは?)。
その筒状の形や色、大きさも見た目は葉巻のようで、中には主に豚のひき肉が詰まった揚げ春巻きである。パリッとカリカリに揚がった皮の食感を楽しむのもいいが、個人的にはチリソースやビネガーを付けて、ややしんなりと、やわらかくなったのが好みだ。
これまでルンピアン・シャンハイを食べて、実は中の具に感動したことはあまりない。中身よりも皮を楽しむ料理だと勝手に思っている。シーフードを使ったルンピアン・シャンハイもあるのだろうか。エビを使ったら、ベトナム料理の揚げ春巻き、チャージョーになってしまいそうな気もするが。
シャンハイという名前の春巻きなので、もちろん生まれは中国・上海なのだと思っていたら、900年~1500年代、スペイン統治時代の前にすでに中国・福建からの移民によってフィリピンにもたらされ、フィリピン人向けに改良されて今のようになったようだ。
ルンピアは、元々福建語で湿ったペイストリーという意味の言葉に由来する。なぜルンピア・フッケンとは名付けられなかったのか疑問である。福建よりは上海の方が都会的でイメージがいいからという当時のマーケティング戦略であろうか。
天津飯は天津になく、ナポリタン・スパゲティもナポリにないとされるが、上海では実際に揚げた春巻きが食べられているらしい。機会があればルンピアン・シャンハイと食べ比べてみたいものだ。なお、ルンピアはスペイン統治時代にはトウモロコシでつくられた皮、トルティーヤで包んでいたとされる。そのまま普及していたら、トルティーヤ・シャンハイという名前になっていたかもしれない。
最近、何かとフィリピンと中国の関係がニュースになることが多い。領海問題でフィリピンがいやがらせを受けている。この先、中国の地名が付いたルンピアン・シャンハイやパンシット・カントンの名前を変えようという声がフィリピン人の中から出てくる可能性はないだろうか?(T)
(初出まにら新聞2024年5月9日号)