「日本」と名の付いた中華菓子
どら焼きを食べてひらめいた?

 

 外国の地名が付いているフィリピン料理がある。すぐに思い浮かぶのが、スパニッシュ・ブレッド、パンシット・カントンやこの欄でも紹介したルンピアン・シャンハイ。スペインや中国との長い歴史を考えれば、このような名前が付くのもうなずける。米国とも深いつながりがあるはずだが、アメリカンと呼ぶのはコーヒーぐらいか?

 

 

 はたして日本という名前が付いたフィリピン料理はないものかと探したら出てきたのが、ホピア・ハポン(日本)。ホピアは1900年代初めに中国・福建省からの移民によってフィリピンにもたらされた菓子で、福建語でおいしい焼き菓子という意味。中秋節に食べる月餅の廉価版という説もあり、形は丸いのもあれば、サイコロの形のものもある。

 

 


 薄い外皮に包まれた中に詰まっているのは、スープでおなじみのモンゴ(緑豆)、ウベ、パイナップル、ジャックフル-ツ、ドリアン、チョコレート、カスタードクリーム、さらにポーク入りもある。そして小豆あんが詰まっているのが、ホピア・ハポンだ。つぶあんではなく、こしあんでパサパサしていて、しっとりとした口当たりを期待すると裏切られる。

 

 


 ホピア・ハポンは一般的な名称となっているが、最初に開発したのは中華菓子で知られるエン・ビーティン(Eng Bee Tin)とされる。どうして小豆あんが詰まっているのをホピア・ハポンと名付けたのだろうか。フィリピン人に小豆あんが日本を連想させるのかと周囲に聞いてみるが、そうでもない。エン・ビーティンの開発担当者が日本でどら焼きやたい焼き、あんぱんを食べて「これをホピアに!」とひらめいたのだろうか。ホピア・レッドビーン・ペーストと名付けず、日本と名付けたのがえらい。ホピアの中で、地名が付いているのは、今のところこれだけ。そのうちキムチやプルコギ入りのホピア・コレアノが開発されるかもしれないが。

 

 

 タガログ語をちょっとでもかじっていれば、ハポンは日本のことだとわかるが、筆者はずっと知らなかった。しかし、ホピア・ハポンでなく、ホピア・ジャパンだったら、サムライ・ジャパンみたいに何かスポーツの日本代表チームのようだし、ホピア・ニッポンだったら絶滅しそうな鳥の学名(トキ、ニッポニア・ニッポン)みたいなので、ホピア・ハポンでよかった。筆者がタガログ語のハポンとヒポン(Hipon、エビ)の区別ができるようになったのも、ホピア・ハポンのおかげである。(T)

 

 

(初出まにら新聞2024年5月23日号)