日本とフィリピンの合作映画『DitO』の上映会(国際交流基金マニラ主催)が8月7日、首都圏パラニャーケ市のアヤラモール・マニラベイで行われた。

 

 

 本作は、フィリピンで再起を目指しトレーニングに打ち込むボクサー神山英次を、その娘の桃子が日本から尋ねて来るところから始まる。日本で一緒に暮らしていた母ナツの死をきっかけに、高校もやめすべてを捨てて英次のもとへ来たという桃子に対し、戸惑いを隠せない英次。桃子も桃子で、久々の父との再会や慣れない異国の地での生活にぎこちなさを見せる。この2人が次第に成長し、心を通わせていく姿が映画全体を通して描かれている。

 

 

 

 日本の俳優の結城貴史氏の初監督作品で自身が主演・プロデュースも担い、自らの俳優人生で感じていたテーマであった「居場所」を映画のテーマにしたという。タイトルのDitO(ディト、フィリピン語で「ここ」の意)には、そうした監督の思いが込められている。

 

 

 

 上映会の翌日に行われたトークイベントで結城監督は、もともと別の作品関連でボクシングを始めていたと明かした。ボクサー役としての体重管理やスパーリングシーン、セリフの多くがフィリピン語、言葉で多くは語らずとも、熱い男の想いが感じさせる演技、それらに加えて監督業やプロデューサー業が必要となった。

 

 

 かなり大変だったのではと、結城監督に聞いてみたところ、「大変というより、自分はずっと楽しかった」と笑顔で答えてくれた。コロナ禍の期間もはさみ、またフィリピン人スタッフたちとは労働環境が異なることから衝突もあったようだが、役の神山同様、結城監督の熱さで乗り越え、映画完成に至ったようだ。

 

 

 

商業施設アヤラモール・マニラベイでの特別上映前にあいさつする結城貴史監督

 

 

 この映画の見所やいいところはさまざまある。それはもちろん、居場所を探して成長する登場人物たちの物語であったり、音楽とカメラワークの効果でわくわくさせられるボクシングシーンであったりする。そんな中で、フィリピン在住者やフィリピン通の人たちに注目していただきたいのが、実に細かい点で気付かされる「フィリピンあるある」だ。

 

 

 それはフィリピンを象徴するジープニーやパレンケの情景などではなく、例えば、歌を歌いながらテーブルを拭いているちょっとおせっかいそうなローカルレストランのおっちゃんであったり、再利用されるお菓子「スティック・オー」の空の入れ物だったりする。そういったありのままの「フィリピン」のディテールが映し出されていることで、この映画をより一層人間味あふれるものにしているように感じた。

 

 

 

 現在『DitO』は日本で絶賛公開中。日本に一時帰国予定がないという方も、今後動画配信サービスで公開される予定があるという。父と娘の物語、人間のあきらめない心、居場所を求める姿、ボクシングシーン、そしてフィリピンあるあるを楽しみに、ぜひ鑑賞してみてほしい。