マカティのオフィスからケソン市であったイベントへ取材で出向いたとある金曜日。社用車はコーディングで使えず、MRT も最終目的地へ行くのに不便。グラブでは間違いなくエドサ通りの渋滞でかなりの時間がかかってしまう。そこで、バイクタクシーを利用することにした。

 

 

 いつものようにアプリで予約し、運転手から到着の連絡があってピックアップ場所まで向かう。運転手を見つけて歩いていき、「ハロー」と声をかけた。すると私の顔を見た運転手はにっこりしながら言った。

 

 

「アリス・グオに似てるね」

 

 

 え、第一声がそれ? 今やフィリピンで注目の時の人、アリス・グオ容疑者。運転手も朝のニュースか何かで彼女の顔を見たのだろうか。これがもし、いい意味で注目されている人だったのならまだ良かったかもしれないが、彼女は国籍詐称や人身売買などの容疑で拘束された人物である。「え、本当に?」と言って笑うしかなかったが、大変複雑な心境であった。

 

 

逃亡先のインドネシアから強制送還されるアリス・グオ容疑者(中央)と送還便に同乗したアバロス内務自治相(左)とマルビル国家警察長官(右)。笑顔&ピースのこの写真がSNSで拡散され、不適切であると批判された。ちなみに筆者自身は彼女と全く似てると思わないのだが…。(Wikimedia Commons Public Domain)

 

 

 無事目的地へ到着し、その運転手とはおさらば。その後取材も終えて、オフィスへ戻るため再びバイクタクシーを予約した。今回の運転手は私の顔を見るなり何か言ってくることはなく、少しクールそうな見た目であった。行きのバイク移動と取材で疲れたので、「日本人?タガログ語話せる?」などのやりとりを最後に特に会話もなく、何も考えずぼーっとしたまま帰れてちょうどいい。そんなことを思っていると、渋滞で運転スピードが緩まったエドサ通りで、運転手から突然の質問。

 

 

「神様を信じてる?」

 

 

 これは…どう答えるべきか……? と思いつつ、なんだか嘘をつくのも気が引けたので正直に「いいえ」と回答。すると「やっぱりね」とでも言いたげな大きな頷きを見せた後、その運転手は丁寧に「渋滞してるから、その間に僕の過去の話をさせてくれ」と断りを入れたのちに彼は話し始めた。

 

 

「僕は昔は薬物中毒者で、3回も刑務所に入ったことがあるんだ。うち1回は暴行罪だけどね(おいおい、乗客として別に聞きたくなかった情報である)。それまでは神様も信じていなくて、荒れていたんだよ。でもある日突然、聖霊の存在を感じて、神様はいるんだと確信した。それから聖書を読むようになって、改心して今では別人になった。昔の自分にはもう戻らない」

 

 

 そしてそれから「あなたは今神様を信じていないからわからないだろうけど、いつかわかる日が来る。その日が来ることを祈ってるよ」と続け、「ご清聴ありがとうございました」と締めくくった。

 

 

 

 全く一言も会話をせず目的地まで行くことも多いバイクタクシーだが、この日はなんだか当たりの日(?)だったようだ。運転手たちとの出会いはまさに一期一会。残念ながらアリス・グオと言われたことも別にうれしくなかったし、正直、聖書を読んでみようとまでは思わなかったが、この一期一会を楽しみたいと思わせてくれた2人の運転手であった。(新)

 

 

運転手との会話も楽しい(?)バイクタクシー (イメージ写真)