みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 前回(9月号)、フィリピン語にはkitaという「私はあなたに(を)」を意味する特殊な代名詞があることを解説しました。kitaはko(私)とikaw(あなた)を組み合わせた言葉でしたね。今回はこの「あなた」を意味するikawという代名詞についてとりあげます。
Ikawとka
このikawという言葉は文頭に来る時にはikawですが、それ以外の場所に来るとkaに変化します。たとえば “Kumusta ka?” と言えば「(あなたは)元気ですか?」という意味ですし、 “Mabuti naman. Ikaw?” は「元気ですよ。あなたは?」という意味になります。ここでも文頭に来る場合はikaw、文中に来る場合はkaが使われていることがわかります。まれに母親が子どもに話しかける時など “Gising na ikaw?” などと話しかけていることがありますが、これは本来なら “Gising ka na?” (目が覚めた?)と言うべきところを、日本語なら「おめめ覚めまちたか?」と愛情をこめて子どもに話しかけているような印象です。
Kayo? Sila?
ikawやkaは「あなた」一人に対して使う二人称単数の代名詞なので「あなたがた」つまり複数ならkayoを使います。ですからこのコラムの冒頭に書いているように “Kumusta kayo?” と言えば、「皆さん、お元気ですか」と複数の人に話しかけていることになります。ところが、実は相手が一人でもkayoを使う場合もあるのです。それは尊敬表現として使う場合です。ikawやkaは通常、自分と対等か、あるいは目下の人に使う言葉なので、目上の人にikawを使うと不躾な印象を与えます。そこで相手に対して敬意を表したい時はikawやkaの代わりに二人称複数の代名詞kayoを使います。ですから “Kumusta kayo?” と言っても、必ずしも相手が複数とは限らず、ひとりの目上の人に対して聞いている可能性もあります。複数にすることで丁寧さを表現できるのは面白いですね。
さらに、「彼ら」を意味するsilaをikawやkaの代わりに使うこともあります。たとえば来訪者に対し “Sino ka?” (あなたは誰だ?)と言うと、まるで怒っているかのような、ぞんざいな印象を与えてしまいます。ですから、その代わりに “Sino po sila?” を使うのです。直訳すると「彼らは誰ですか?」と言っているように思えますが、実は「どちら様ですか?」という意味なのです。sila(彼ら)という三人称複数の代名詞にすることで、直接ikawやkayoと言うのを避け、遠回しにすることで丁寧さを表しているわけです。またpoについては以前取り上げたことがありますが、これを付けるだけですべてが丁寧語になる便利な言葉です。
Ikaw na!
Ikaw na! はここ数年流行している表現です。ikawが「あなた」でnaが「もう」だから「もう、あなた」と訳せそうですが、これでは意味がわかりませんね。実はこれは “Ikaw na ang magaling” (あなたが上手い) “Ikaw na ang panalo.” (あなたが勝ちだ) “Ikaw na ang matalino”(賢いのはあなただ)などを省略した表現です。日本語にすれば「あんたが一番!」「あんたはエライ!」と言ったところでしょうか。元はSNSで流行り始めた言葉をテレビでタレントが使ったことから流行した表現で、人を揶揄するために皮肉っぽく使われることもあります。気心の知れた仲間の間では本当に褒め言葉として使われることもあるので、その微妙なニュアンスが分からないうちは自分で使うのは避けた方が賢明でしょう。大概の場合、皮肉なのか褒め言葉なのかは口調やトーンで判断ができそうです。言葉はその使い方によって人を傷つけてしまうことも逆に力づけることもあります。正しく使って良い人間関係を築いていきたいものですね。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大(現大阪大外国語学部)フィリピン語科卒。最近の楽しみは出張をより快適にするアイテムを集めること。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia