みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 前回(10月号)、フィリピン語では訪問者に対して “Sino po sila?” と3人称複数の代名詞sila(彼ら)を使って「どちら様ですか?」と聞く習慣があることを解説しました。逆に誰かを訪問したとき、日本語では「ごめんください」と言いますが、フィリピン語では何と言えばよいのでしょうか。
Tao po! 「人ですよ!」
フィリピンでは誰かの家を訪問したときやサリサリストアで店の人が奥にいるときなどは、 “Tao po!”と呼びかけます。 tao は「人」という意味で、poは文を丁寧にする小辞(意味やニュアンスを加える短い言葉)なので、 “Tao po!” は直訳すれば「人ですよ!」という意味になります。誰かを訪問したとき、屋外から「人ですよ!」と声をかけるなんて、ちょっと面白いですね。歴史学者のアンベス・オカンポ氏によると、この習慣はスペイン人が来る前からあった習慣だといいます。昔は外で物音がしたら、それは動物かもしれないし、妖怪や化け物かもしれないので、「人ですよ」と伝えることで、安全だということを伝えたのが始まりだそうです。
May tao! 「人がいます!」」
日本でもフィリピンでも、トイレに人が入っているか確認するためにノックするのは同じです。しかし「入ってます」と答える場合、フィリピンでは “May tao!” (人がいます!)と答えるのです。 mayはmayroonの省略形で「ある」「存在する」という意味です。もちろんトイレの個室には「人」以外に誰もいるわけはないのですが、やはりこれも中にいるのは妖怪ではなく、人ですよ、という意味なのでしょうか。
同様に、トイレの外から、中に「人がいますか」と聞く場面では “May tao?” (人がいますか?)という表現を使います。中に人がいれば “May tao!” または “Mayroon!”(いますよ)と答えるわけですが、返事がなければ誰も入っていないということですね。最近はフィリピンのトイレもきれいなところが多くなり、鍵もちゃんとかかる所が増えたので、「入ってますか」「(人が)入ってます」という会話もほとんど必要なくなりましたが、田舎などでは、たまに鍵が壊れたままになっているトイレもあるので、万一の場合に備えて “Mayroon!”または “May tao!”と答えられるようにしておくと良いですね。
Taoから来た言葉
「人」を表すtaoにも様々な派生語があります。たとえばtaoに-an/-han という接尾辞が付くとoがuに変わってtauhanになりますが、これは「使用人・スタッフ」という意味の「人」や、小説や劇などの「登場人物」という意味にもなります。また makataoなら「人道的な」という形容詞になり、matauhan(oがuに変化)と言えば「正気になる・我に返る」という動詞になります。さらにpagkataoなら「人間性」という名詞です。
「身体」を表すkatawanは一見taoとは関係ないように見えるのですが、これも元来は抽象名詞を作るka- -anという接辞が付いてka-tao-anとなりkatawanとなったもののようです。katawanは人の物理的な肉体や身体を表すのに対して、同じka- -anの接尾辞が-hanになり、katauhan となると、人の内面を形作る「性格」という意味になります。
このように一つの言葉から世界がどんどん広がっていくのも、言語を学ぶ楽しみだと思います。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大(現大阪大外国語学部)フィリピン語科卒。最近の楽しみは出張をより快適にするアイテムを集めること。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia