今回は世界でCOVID-19パンデミックをもたらした空気感染症(Airborne Infection)について呼吸機能の基本から対処法を学びましょう。

そもそも呼吸とは?

 体内に入る物質を重量で換算すると食べ物7%、飲み物8%、空気83%で、いかに空気が重要かがわかります。呼吸とは、空気中の酸素を吸って、酸素が肺胞から血液中に溶け、血管(動脈血)で細胞組織に運ばれ、老廃物の二酸化炭素と酸素とをガス交換し、再び血管(静脈血)で肺胞に運ばれてニ酸化炭素を吐き出すことです。

 1日約2000ℓ(ドラム缶10本)の酸素が使われて、呼吸数は1分間に15回、900回/1時間、21600回/1日、500ml/1回、を自律神経(吸うときは交感神経が気道を広げ、吐くときは副交感神経が気道を狭く)がコントロールします。つまり、空気から酸素を呼吸で血液に運び、細胞に届ける重要な役割を果たしています。特に脳細胞は約3分の酸素欠乏で死滅するので、血液酸素飽和度は常に95%以上が必要です。コロナパンデミックのときに使われた、指で簡単に測定可能な「パルスオキシメーター」は必需品。ちなみに95%以下は酸素吸入が必要となります。

体の血液の酸素飽和度を測定する パルスオキシメーター

鼻呼吸と口呼吸の差とは?

 肺へは鼻腔経由(鼻呼吸)と口腔経由(口呼吸)のルートがあります。鼻呼吸は鼻腔でウイルスや細菌やほこりを除去(約70%除去と適度な湿度)し、扁桃腺の免疫力できれいな空気を肺に送り込む最良の呼吸法です。また、鼻腔には直接脳神経の枝が分布されています。薬剤をナノ分子化し、脳血管関門(脳細胞を保護するために有害な物質を食い止める機能)を介せず噴霧器で吸入することで直接脳神経を活性化し、全身の血流を改善する治療法「鼻腔吸入療法」が注目されています。

 口呼吸は鼻腔で濾過されず、直接肺に汚れた空気を送り込むことになるので、風邪や気管支炎や肺炎に感染しやすくなります。昼間は意識して鼻呼吸が可能ですが、睡眠中は意外と口呼吸をする方が多く、起床後口が乾燥して喉が痛い、いびきがひどい、睡眠時無呼吸症候群などは要注意。対策として睡眠前に、口呼吸にならないように唇に紙テープを貼る方法(写真)があります。


なぜ咳や痰が出るの?

 咳や痰が出るのは、気道や肺の保護のためです。
①異物や刺激物(ホコリ、煙、花粉、ウイルス、細菌、食物など)の排出
②感染からの防御(痰として捕らえて外に押し出すことで肺を保護)
③気道の浄化(咳と痰は呼吸器系の自然なクリーニングシステム)
④反射的な保護(肺は常にきれいな空気を好むので食べ物などが気道に入りかけたら、迅速な反射機能で咳き込むことで、異物を吐き出して、誤嚥性肺炎を予防)
⑤過敏反応の抑制(アレルギーや喘息発作がこれに該当します)

 つまり大事な肺や体を守るための重要なシステムなので、呼吸器感染症の治療は、その原因(細菌、ウイルス、花粉、ホコリ、異物など)をチェックした上で、ワクチン、抗生剤、抗ウイルス剤、抗アレルギー剤、咳止め、去痰剤、感冒薬、吸入剤、点滴などの治療方針が決まります。

コロナとマイコプラズマ感染症
 COVID-19は世界で6億5000万人が感染し、1200万人が死亡しました。ワクチン効果と自然免疫力で終息宣言後も毎日3万人が感染、500人が死亡。フィリピンでは毎日300人が感染、10人が亡くなっています。日本では令和5年5月から感染症重症度分類5類となり、インフルエンザと同じ扱いで、簡易キットで即診断、投薬可能となりました。

カラー電子顕微鏡で見たコロナウイルス(紫色)に感染したアポトーシス細胞(緑色)。(Wikimedia Commons Public domain ,NIAID, NIH Image Gallery from Bethesda, Maryland, USA )

 

 ちなみに、今年はマイコプラズマ(細菌の中でいちばん小さい)感染症が大流行(別名オリンピック熱とも呼ばれ、4年周期で発症)しています。頑固な夜間の空咳が特徴で、マクロライド系の抗生剤が有効です。

 

空気感染症の予防法は?

 手洗い、うがい、マスク、人混みを回避することは当然ですが、咳と痰の機能を高めることも重要です。
①いつも大声で、横隔膜や肋骨を良く動かす。カラオケで高い音で歌うことや風船を膨らませるのも効果あり。
②特に(ぱ、た、ら、が)の発音は口腔内の舌の動きが痰を出し易くする呼吸機能を高めるよい訓練。
③4-4-8呼吸法:4秒で空気を吸って、4秒息を止めて、8秒で吐き出す呼吸法で、気道浄化と肺胞レベルで効率よい酸素と二酸化炭素のガス交換を行う。
④きれいな空気補給と痰を出しやすくする。睡眠前に唇に紙テープを貼り鼻呼吸を活用、
水分を補給することで痰が出やすくなる。
⑤水分補給をし、室内を湿度50%以上に保つ。大きなバスタオルを湿らせて部屋干しするのも効果あり。
⑥フィリピンで容易に買えるマンゴ、パパイヤ、カラマンシーなどの豊富なビタミンCの果物は免疫力アップに役立つ。

フィリピンでジュースや調味料としておなじみのカラマンシー

⑦最近の研究では、鼻腔吸入療法が注目されている。脳血管関門を介せず薬剤が効率よく脳神経や毛細血管から吸入され(点滴投与とほぼ同じ吸収率との報告がある)、次世代の治療法として期待されている。

伊藤実喜 Dr. Miyoshi Ito
医師・医学博士 
東京上野マイホームクリニック院長。STCメディカル国際クリニック(マニラ市マラテ)理事。AMIRI免疫研究所(大阪)理事。Cell Lead International (大阪)専属医師デ・オカンポ医大(De Ocampo Memorial College) 客員教授。1951年福岡県小郡市生まれ。福岡大学医学部大学院博士課程修了。レイテ島での医療ボランティアをきっかけに、フィリピン各地の貧困地区や刑務所などで「ドクターマジック」として手品ショーを取り入れた医療奉仕活動を行っている。1993年第60回奇術世界大会(カナダ・バンクーバー)優勝。
所属学会:日本臨床内科医会、日本糖尿病学会(生活指導医)、日本再生医療学会(厚労省再生医療第2種3種取得医))、日本温泉学会(温泉療法専門医)、日本旅行医学会(認定医)、日本性機能学会、日本奇術協会(芸名 Dr. Magic)、NPO日本フィリピン夢の架け橋代表