花で彩られるバギオの街

 

 観光地バギオのトップシーズンは乾季の2月から4月。マニラの暑さを逃れ、例年多くの観光客で賑わってきた。特に人気なのは2月に開催される「パナグベンガ(カンカナイ族の言葉でBlooming、別名フラワーフェスティバル)」。「花」をテーマとするバギオ最大の祭りだ。

 

 一番の目玉は、バギオ市内の生徒たちが目抜き通りのセッションロードを踊りながらパレードする「ストリートダンス・コンペティション」と、企業などをスポンサーにして大量の花を飾った豪華な山車(だし)のパレード。2月後半の週末に行われるこの2つのパレード目当てに観光客が殺到し、セッションロードは身動きがとれないほど混雑する。あまりの混雑ぶりに嫌気がさして、実は私は10年以上、現場でパレードを見ていない。

 

 

 パレード終了後、セッションロードは歩行者天国となって一晩のうちに露店が並び、「Session Road in Bloom」というストリート・マーケットが1週間開催される。バギオならではの土産物店や有名レストランが出店し、日頃はお目にかかれない市外からの出店者による特産品などのブースも並ぶ。

 

 

 

多くの人でにぎわうストリート・マーケットSession Road in Bloom

 

 ストリートダンスに参加する小学生から大人までのグループは、何カ月も練習を重ねる。山車には大量の花が必要となるので、バギオ市と近隣の花卉(かき)農家はパナグベンガの時期に満開となるように、たくさんの花を栽培してきた。パナグベンガがもたらす経済効果は宿泊や飲食などの観光関連業だけでなく、農業関係にまで恩恵をもたらしてきたのだ。

 

 

 コロナ禍が始まった2020年初め、バギオ市長は祭りを中止することによるあまりに大きい経済的なダメージを考慮し、またこの祭りを何よりも楽しみにしてきたバギオ市民のために何度か延期をした。そして、3月になって感染がバギオ市内でも広がったことで、すべてプログラムの「完全中止」とせざるを得なくなった。バギオ市が受けた経済と市民の心の打撃は計り知れなかった。

 

 

 昨年もまだ感染状況は深刻で、もはやパナグベンガの開催を期待する声は少なかった。「準備して水泡に帰して大損するくらいなら、最初からやらないと言ってくれた方がましだ」という空気が漂っていた。案の定、感染は収まらず、昨年は2月には中止の決定がされた。2年連続でパナグベンガが中止となり、バギオ市の受けた経済的打撃はとてつもなく大きかった。

 

 

 

コロナ急減、開催は奇跡?

 

 さて、今年である。今年も昨年同様、市長は「縮小して行う」という会見を1月に行った。しかし、1月の感染者はフィリピン全土でピーク。さらにバギオは1年で一番寒い時期なのもあって、誰も彼もが体調不良。周囲を見渡しても新型コロナウイルスに感染したのか、ただの風邪で具合が悪いのかわからないまま家に引きこもっている人だらけだった。とてもあの華やかなパナグベンガが開催できるとは思えなかった。二度あることは三度ある。今年も中止に違いないと誰もが思っていた。

 

 

 ところが、驚いたことに2月に入って感染者が激減したことから、2月21日にパナグベンガの日程が主催団体から正式に発表された。開会式典は3月6日。3月1日に警戒レベルは1に引き下げと発表され、1日あたりのバギオ市に入ることができる観光客の人数制限も撤廃された。

 

 3月6日、3年ぶりのパナグベンガは、公園の広場を会場に、セントルイス大学の学生たちによる先住民族の伝統ダンスで開幕した。オンラインで中継されたこのパフォーマンスがすばらしかったと評判を呼んだ。そして市長は、開会式の冒頭で「皆さん、ぜひマスクを外してください。そしてこのバギオの涼しく澄んだ空気を吸い込んでみてください」とあいさつし、どよめきが起こった(もちろん、深呼吸をした後に「またマスクを戻してね」とユーモアたっぷりに語ったが…)。

 

 

開会式でのセントルイス大学の学生によるパフォーマンス(写真:PIA Cordillera)

 

 

 

パナグベンガ・フィーバー

 

 突如開催が決まった今年のパナグベンガの盛り上がりはすさまじかった。毎日のように新しいイベントが公園や街中のどこかで生まれた。屋内の観光施設の人数制限もなくなったことから、ライブや映画上映会場がどんどん増えていった。予定にないマラソン大会まで開催され、車両規制が行われた。よくもまあ、こんなに短い準備期間でこれだけのイベントが開けるものだと感心した。切羽詰まった時のフィリピンの人の底力にはかなわない。2年間がまんし続けてきた特に若い人たちのエネルギーが一気に良い方向に炸裂したように思う。

 

 パナグベンガの最後を飾るセッションロードのストリート・マーケットも例年通りに行われた。ぎっしりと並ぶテントと多くの人出に、ネットでは「Enjoy Now, Later Lockdown」といった自嘲的な投稿も見られたが、多少の不安を抱えながらも、人々は「楽しむ」という選択をしたということだろう。

 

 

ミス・バギオ・ツーリズムがコスチュームコンペの会場にゲストとして登場(バギオ観光局フェイスブックより)

 

 

 閉会式ではセッションロードの特設ステージにコーディリエラが誇る2人のシンガーの歌声が響き、地元のバレエスクールの生徒たちが急に決まった出演とは思えないほどの見事なダンスを披露した。ステージでのすべてのプログラムが終わったぴったりのタイミングで、セッションロードを登り切ったところにある大型ショッピングモールSMバギオから花火が打ちあがり、観客の若者はこぶしを突き上げて歓声をあげ始めた。クラブのような熱狂が巻き起こった。この2年間、耐え忍んできたバギオの人々のエネルギーが、一気に吹き出すのを見た思いがした。

 

花の祭典パナグベンガは、バギオの夜空を彩る花火で締めくくられた。

 

 

 

 

反町 眞理子

環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN)代表。Kapi Tako Social Enterprise CEO。山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業を運営。

Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/

コーディリエラ・グリーン・ネットワーク  https://cordigreen.jimdofree.com/