今年の1月5日、私はバギオの英語学校JICの宿舎に入室。3月末の修了を2週間後に控えた3月16日の夜、突如、ルソン島全土に都市封鎖が発令。厳戒態勢の道路、街中を潜り抜けて19日に帰国。現在は愛知県長久手市の自宅から、中京大学のオンラインゼミで「変容する世界」をテーマに教えている。
 前編・後編の2回にわたり、様々な出来事に遭遇した留学生活をお伝えする。

 

懇切丁寧なジェイリーン先生とのマンツーマンレッスン

韓国、イエメンの学生とグループレッスン。テキサス出身のビリー先生(左から2番目)

 

バギオ英語留学のわけ

 

 「Ru、なぜバギオで英語を学んでいるの」とよく聞かれた。白髪頭のオヤジが20代の学生らの中に入ると、よく目立つ。私の苗字の末尾の音、Ruを英語のニックネームにした。朝の7時半から夕方の5時過ぎまで、マンツーマンとグループレッスンが容赦なく続く。若い学生が体調を崩し休みがちだと、オヤジの意地を見せたくなる。そこまでして、なぜバギオで英語留学?
 昨年3月末、35年勤務した朝日新聞社を選択定年で退職。主に広告局で新聞広告のセールスやイベントの企画運営、紙面づくりに関わった。9年前の2011年4月末、東日本大震災の直後、バギオを本拠地とするNGO Cordillera Green Network(CGN)が環境演劇公演のため来日。名古屋公演を新聞社としてお手伝いした。
 コルディリエラ各州から選抜された先住民族の高校生20数名らが、昔話をモチーフに伝統衣装の褌(ふんどし)やスカート姿で繰り広げる演劇を初めて目にした。部族が異なり言語、文化の違う若者たちが、現在、抱えている社会問題に共に向き合いながら、伝統文化の誇りに目覚めていく姿に心底、魅せられた。さらに、彼らを率いていたCGN代表の反町眞理子さんのエネルギッシュな行動力に驚いた。2001年からCGNを発足させコルディリエラ各州で植林、コーヒーの森林栽培、環境演劇など環境教育を軸に地域の自治体、学校と連携し広範囲に活動している。
 CGN名古屋公演のお手伝いをした頃、私は、仕事でご縁があった愛知県立大学大学院で文化人類学を学ぶ社会人院生でもあり二足の草鞋(わらじ)を履いていた。直ぐに彼らの故郷を訪ねたくて、会社から10日間の休みをもらいバックパッカー姿でバギオに辿り着いた。CGNの用意してくれたジプニーとスタッフ3名で、先住民族の高校生たちの住むコルディリエラ山岳地域を巡り、バギオからトゥゲガラオまでの長旅を満喫した。その後、調査地を世界文化遺産の大棚田地域が広がるイフガオ州ハパオ村に絞り、なかなか見る機会のない収穫儀礼綱引きプンノックに出くわす。伝統文化教育をテーマに博士論文を書き、幸運にも学位を頂いた。バギオとのご縁のお陰で、退職後は、愛知県立大学の研究員として在籍し、非常勤講師をしている。
 ところが国際文化の学位を頂きながらも私の語学力は大変お粗末。本来なら英語のみならず現地語をマスターするのが文化人類学研究者の基本。いつも現地でCGNが用意してくれた通訳者を介して調査していた。今からでも語学力はアップできると信じ、今回の留学を決めた。

 

2011年4月、CGN環境演劇の名古屋公演

2014年8月、イフガオ州ハパオ村の綱引きプンノック。2015年、ユネスコ無形文化遺産に登録

 

個性豊かなフィリピン人教師たち

 

 マンツーマンは3人の先生から習った。経歴も教え方も三者三様で実に面白い。1限目は旅好きな独身男性トッフィー(40)。病院、SMモールでの勤務経験もあり、幅広い知識と経験の持ち主。フィリピン社会の表と裏を明かしてくれた。
 2限目は2歳になる1児の母、ジェイリーン(30)。小学校教師の経験もある聖母の様な存在。彼女自身の家族、親族の抱える問題も赤裸々に語ってくれ、つい私のプライバシーも暴露してしまった。8月には2児の母になる。
 3限目は10歳と12歳の男の子のお母さんマルー(40)。フィリピンでは珍しく子供のために生命保険に入る良妻賢母で、私にとっても頼りになるお母さん。
 彼らとの話題は、性的被害やいじめ、差別などタブーな話にも及び、彼らの本音と悩みも交錯する。生徒は韓国、台湾、日本、中近東などと幅広く、生徒の態度や気質も異なり、先生にとって苦労の連続とこぼしつつ楽しんでいた。
 次回は、そうした各国の生徒たちが、突然、都市封鎖に直面した様子をお伝えする。

 

(愛知県立大学多文化共生研究所 客員共同研究員、中京大学非常勤講師 日丸 美彦)

週末、韓国の学生らと焼肉、喫茶、KTV(カラオケ)を楽しむ

JICの宿泊部屋と教室を行き交う生徒ら。生徒の人数は約70名で、出身国は韓国、台湾、日本、中近東など