世界遺産バナウエの棚田に並ぶコーディリエラ山岳地方の人気観光スポットといえば、ワイルドな洞窟体験と松林の中の素朴な村の暮らしを味わうことができるサガダである。
コロナ禍による規制が緩和されてマニラからの直行バスが再開し、サガダにも観光客が戻ってきている。今回、私は観光客にも地元の人にも愛され続けているサガダ伝統の手織り工房「サガダウェービング」を訪ね、オーナーのエズラさんに話を聞いた。
サガダウェービングは、1960年にエズラさんの祖母が、ベンゲット州の鉱山開発地域にあった織物工房レパントクラフトの創業者である米国人フォスター氏と共同で始めたそうだ。鉱山労働者の妻たちに生計手段を与えたいという思いから創業し、エズラさんの祖母が生産面を担い、フォスター氏がマーケティングを担当していた。しかし、レパントクラフトが事業から撤退。その後、1968年にサガダウェービングとして独立し、現在に至っている。
先住民の暮らしを
織物の模様に描く
サガダの織物には、稲作を主軸とする先住民族の暮らしや風習、山や川などの自然がモチーフとして取り入れられている。エズラさんいわく、コーディリエラの織物に織り込まれた模様は、部族や民族を象徴しており、一般的にコーディリエラの北東地域では、狩猟に使う槍(やり)や蛇をモチーフとすることが多いそうだ。一方、サガダを含む南西地域では、杵(きね)や臼(うす)、壺が描かれ、コーディリエラ地方全域に共通するヤモリのデザインには、繁栄の意味が込められている。
実際にサガダウェービングの工房を見学してみると、織り手さんが黙々と作業をしていた。8機ある織り機のうち、現在稼働しているのはコロナ禍の影響で4機のみ。昔は伝統的な織り機を使っていたが、1980年代に生産性を向上させるため機(はた)織り機を導入した。あらかじめ張った2742本の縦糸に、踏み木をコントロールしながらシャトル(杼/ひ)で横糸を滑らせて、目にも留まらぬ速さで複雑な模様を織り込んでいく。まさに職人技である。1人の織り手で1日3〜4メートルの織物を織り上げるそうだ。
新旧ブランドが切磋琢磨
受け継がれる伝統文化
コロナ禍は、山奥深いサガダにも大きな影響を及ぼした。観光客が途絶え、工房は2年間休業を余儀なくされた。その間は在庫の織物をオンラインで売ってなんとか事業を継続したが、従業員数はパンデミック前の25人から8人に減った。パンデミック収束の期待が高まる今、サガダウェービングは再興のために少しずつ動き出している。
「サガダウェービング」は、サガダの織物という意味であるとともにブランド名でもある。現在はサガダの織物を使った新たなブランドがたくさん生まれている。街の中心にある土産屋を訪ねてみると、サガダの織物で作ったバックなどが数多く販売されており、少なくとも6種類のブランドがあった。競争も激しいに違いない。
サガダウェービングは他社との差別化を図り、模倣を防ぐために「サガダウェービング」という商標を知的財産権として登録した。しかし、エズラさんは新興のブランドと敵対するのではなく、「お互いに切磋琢磨しながらサガダの織物を文化として受け継いでいきたい」と話す。サガダ伝統の織物への愛情と情熱を感じた。
サガダウェービングの製品はフェイスブック(Sagada Weaving 1968) からメッセンジャーで注文することができる。
[筆者]
古瀬 貴一 環境NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワークインターン。
文部科学省主催「トビタテ !留学JAPAN」日本代表プログラム14期生。
https://www.instagram.com/kiichi.furuse/
環境 NGOコーディリエラ・グリーン・ネットワーク(Cordillera Green Network / CGN):
山岳地方の先住民が育てた森林農法によるコーヒーのフェアトレードを行う社会的企業。
Yagam Coffee オンラインショップ https://www.yagamcoffeeshop.com/
コーディリエラ・グリーン・ネットワーク https://cordigreen.jimdofree.com/