蝶谷 正明(セブ日本人会)

 

 私が住んでいるセブ市バニラド地区に、ここ何年かで4店のキッチン専門のショールームが開店しました。SMやアヤラのモールにもこの種の店舗がありますから、セブ全体でかなりの数があると思われます。今のところ、こうしたキッチンのショールームが撤退した話は聞きません。おもしろ半分でのぞいて見ると、アメリカやドイツの最高級システムキッチンです。 

 

 絵に描いたような美しさと清潔さに、人間工学に基づいた機能性あるデザイン。素材も最高のものがふんだんに使われています。どんなに狭くても8畳、そして調理や配膳用の個別のアイランドや、対面式のテーブルが付けば15畳以上は必要になります。しかし、少しでも料理に関心がある者が見れば、まさに夢のようなシステムキッチンです。もちろん値段は目玉が飛び出るほど。好みや予算に合わせてカスタマイズされるのですが、ミリオンペソ単位です。 

 

目の保養になる!? 最高級システムキッチンのショールーム

 

 コロナ禍前のセブは、コンドミニアムやオフィスビルのみならず、一戸建て住宅も建築バブルの真っ最中でした。高級ビレッジには富裕層が豪邸を競うように建て、コンドも着工前に完売という状態。最高級システムキッチンは、そうした富裕層の需要を狙ってのビジネスです。  

 

 これまでセブのいわゆるハイエンド、最上級の製品を好む富裕層の家では、屋敷の豪華さの割にはキッチンは見劣りしていたと言えるでしょう。もちろん、それなりの規模と設備は完備していますが、住居の中で、キッチンは陽の当たらない場所という印象でした。リビングやダイニングが「ハレ」の場であれば、キッチンは「ケ」で、お客様に見せるものではなく、奥様や家族もあまり足を踏み入れるような場所ではありませんでした。しかし、彼らの子どもたちが欧米に留学し、清潔で機能的なキッチンを見たり、友人が手料理でもてなしてくれるといった経験をしてきました。帰国後、独立して自宅を新築してもらう時に、そうした経験が活きてくるのです。既存の建築資材業者が扱っているキッチンでは満足できません。彼らが実際に自分で料理することは多くないのでしょうが、お客様を招き、特別に手料理でもてなすという時にはすばらしいキッチンも見せたい、見てもらいたいと思うのでしょう。

 

 セブの最高級システムキッチンのビジネスにコロナ禍はどのような影響をおよぼすのか、注視していきたいと思います。