フィリピンと日本、世界を幸せに。
ミンダナオ産カカオでつくるクラフトチョコレート
チョコレートについてネットで検索すると「チョコレートを食べると、幸せホルモンが増える」という情報や、「10人いれば9人はチョコレートが好きと答える。残りの1人はうそつき」という名言(?)に出会います。古今東西で愛されてきたチョコレート。近年はカカオ豆からチョコレートができるまで工房で一貫して行う「Bean to Bar」製法によるクラフトチョコレートも注目を集めています。そして先頃、英国で行われた65カ国から1400点を超えるチョコレートが出品した品評会で、フィリピン産カカオのクラフトチョコレートが受賞しました。作り手は増田恭子さん。日本でcocomas chocolateを創業した増田さんに、クラフトチョコレート、そしてフィリピン産カカオへの思いを聞きました 。 (聞き手・時澤圭一 / 写真・cocomas chocolate )
フィリピン産カカオの
可能性を知ってほしい
英国アカデミー・オブ・チョコレート(AOC)の品評会で昨年12月、2種類のダークチョコレートが銅賞、クランチタイプのチョコレートが推奨枠に入賞しました。クラフトチョコレート関係者にとって、このAOCや、インターナショナル・チョコレート・アワード(ICA)で受賞することは一つの目標です。フィリピン産カカオのチョコレートをもっと多くの人に知ってもらう機会になればと思い、今回初めて出品しました。また、自分が作ったチョコレートの客観的な評価を知りたいという気持ちもありました。
当初、昨年3月のAOCの締め切りに合わせてチョコレートをロンドンに送りましたが、コロナ禍によるロックダウンで受け取り先不在で戻ってきてしまいました。その後、9月末に審査再開の連絡がありましたが、10月下旬の提出期限まで準備期間も少なく、当時は国際スピード郵便(EMS)で日本からロンドンまで2週間以上かかる状況。いちかばちかで発送し、12月にウェブサイトで受賞を知りました。
今回の受賞で、やっとスタート地点に立てたという感じです。2019年の創業時、1年目はまず地元の方に知っていただきながら様子を見て、2年目から積極的にプロモーションをしようと計画していました。まさに2年目のスタートのタイミングでコロナ禍のため予定していたイベントなどが相次いで中止になり、cocomasという名前とチョコレートを知ってもらう機会がなくなってしまい・・・・・・。オンライン販売に力を入れようにも、無名で味のわからないメーカーのチョコレートを買っていただくのは、ハードルが高い。そういう意味で受賞は一つの指針、そして大きな強みになると考えています。カカオの仕入れでお世話になっているミンダナオの農協に受賞を知らせると、農家の方も喜んでいると言われました。
仕事を辞めて、思った。
「カカオを見に行こう」
私は子どもの頃からチョコレートが大好きで、航空会社で働いていた時は世界各地のチョコレート屋さんに行くのが楽しみでした。趣味としてチョコレート作りのワークショップや、短期のコースにも通いました。そして約10年前、ワインソムリエの勉強をしている時にチョコレートのワークショップがあり、1種類のカカオ豆で作られるシングルオリジンのチョコレートに出会ったのです。そのベネズエラ産とインドネシア産カカオのチョコレートは、カカオと砂糖しか使われていないのに、まるでオレンジやパッションフルーツのような味。感動しました。ワインのように、将来はチョコレートもカカオの産地や品種で分類される時代が来るのではと思い、シングルオリジンのチョコレートに惹(ひ)かれていきました。
2016年に広告代理店を退職した時のこと。ふと、「チョコレートの原料、生のカカオを見たい」と思いました。カカオの産地は中南米やアフリカが有名ですが、アジアのカカオを調べると、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどが見つかりました。その中から英語で意思疎通ができることなどを考えてフィリピンに決め、16年から18年まで主要生産地のミンダナオ地方ダバオで暮らしました。
生産地でカカオに魅了
チョコで農家支援を
ミンダナオのカカオは、レモンやオレンジのような柑橘系フルーツやヘーゼルナッツのような風味があって酸味が高め。ココナツのフレーバーもあり、ミルクが入っていなくてもミルクチョコレートのようになることがあります。
ダバオでカカオについて調べるにつれ、その品質のすばらしさに魅了されました。その一方、販路や生産者の貧困などの問題も見えてきました。在住中には戒厳令が発令され、行動制限のため産地に行けない時期もありました。
ミンダナオ産カカオの良さをもっと多くの人に知ってもらって販路をつくり、適正価格で生産者と取り引きする。農家により良い環境でより良いカカオを作ってもらい、消費者に品質の良いチョコレートを届ける。このような社会貢献につながるチョコレート作りをしようと、帰国後にcocomasを設立しました。
実はカカオは・・・・・・
食べて驚くチョコレート
ミンダナオの現地で買い付け、発酵、乾燥したカカオ豆を輸入し、店の工房でチョコレートを作っています。基本的にcocomasのチョコレートは、フィリピン産カカオと砂糖のみを使用しています。砂糖は種子島産のきび砂糖をベースに、カカオ豆の個性がしっかり感じられるよう独自にミックスしたもの。カカオそのものの風味を最大限に楽しんでいただけるよう、焙煎(ばいせん)や砂糖の配分に気を配って作ったフルーティーなチョコレートなのが特徴です。カカオ含有量の高いハイカカオのチョコレートは一般的に苦いと思われていますが、焙煎を浅めにして苦味を抑え、食べやすくしています。中にはザラザラとした食感のチョコレートもあり、普通のチョコレートとの違いに「衝撃を受けた」というお客様もいらっしゃいます。
カカオはフルーツです。知らない方も多いと思うので、cocomasのチョコレートを食べて知り、実感していただけたらうれしい。カカオは近年スーパーフードとして体に良いと注目されているので、チョコレートを楽しみながら健康になっていただけたらと思います。
カカオ豆からチョコレートとして販売できるようになるまでには、最短でも1カ月かかります。現在は、私1人で店を回しているので、1日10枚から20枚ほどしか生産できません。卸売りのご要望もいただくのですが、今は手一杯なので生産効率の向上をめざしています。また、年間約600〜1千キログラムのカカオを輸入していますが、もっとカカオの買取、輸入量を増やしたい。そのためにも、今後はカカオ生豆の販売やチョコレートの卸売り、BtoBにも対応していきたいと考えています。また、フィリピン産カカオのポテンシャルをもっと広く知ってもらうためにも、カカオの知識を深め、チョコレート作りの技術向上を目標に、日々研究していきます。
ここます cocomas chocolate & cafe
所在地:埼玉県草加市氷川町709
電話:(+81)-48-954-4641
ウェブサイト/ オンラインショップ : http://cocomas-chocolate.com
Facebook : www.facebook.com/cocomaschocolate/