フィリピンと日本、世界を幸せに。
ミンダナオ産カカオでつくるクラフトチョコレート

 

 

 チョコレートについてネットで検索すると「チョコレートを食べると、幸せホルモンが増える」という情報や、「10人いれば9人はチョコレートが好きと答える。残りの1人はうそつき」という名言(?)に出会います。古今東西で愛されてきたチョコレート。近年はカカオ豆からチョコレートができるまで工房で一貫して行う「Bean to Bar」製法によるクラフトチョコレートも注目を集めています。そして先頃、英国で行われた65カ国から1400点を超えるチョコレートが出品した品評会で、フィリピン産カカオのクラフトチョコレートが受賞しました。作り手は増田恭子さん。日本でcocomas chocolateを創業した増田さんに、クラフトチョコレート、そしてフィリピン産カカオへの思いを聞きました 。     (聞き手・時澤圭一 / 写真・cocomas chocolate )

 

増田 恭子さん Kyoko Masuda cocomas chocolate 経営。埼玉県草加市出身。獨協大学経済学部経済学科卒。航空会社客室乗務員、広告代理店、NPO法人勤務等を経て2019年2月にcocomas chocolateを創業。「今、チョコレートの原料カカオの世界的な不足が懸念されています。店名のcocomas(ここます)は、今後も世界中の人々がおいしいチョコレートを食べることができるように、カカオ生産量が向上することを願ってcoco(カカオ)mas(増える)と名付けました」

 

 

フィリピン産カカオの
可能性を知ってほしい

 

 英国アカデミー・オブ・チョコレート(AOC)の品評会で昨年12月、2種類のダークチョコレートが銅賞、クランチタイプのチョコレートが推奨枠に入賞しました。クラフトチョコレート関係者にとって、このAOCや、インターナショナル・チョコレート・アワード(ICA)で受賞することは一つの目標です。フィリピン産カカオのチョコレートをもっと多くの人に知ってもらう機会になればと思い、今回初めて出品しました。また、自分が作ったチョコレートの客観的な評価を知りたいという気持ちもありました。

cocomas original 73% (rough)  Academy of Chocolate Awards 2020 Dark Bean to Bar (under 90%)部門 銅賞 「少しざらついた粗挽きの食感と柑橘系のフレッシュな酸味。カカオ豆をすり潰すコンチングの工程を極端に短くし、フルーティーな風味を生かしています。AOCではカカオ豆の新鮮な果実味が評価されたと思います。砂糖の粒も残り、カカオ73%にしては甘く感じられ、とても食べやすく、食感や風味が普通のチョコレートとは違うcocomasならではの名物です」

cocomas smooth 73% Academy of Chocolate Awards 2020 Dark Bean to Bar (under 90%) 部門 銅賞 「roughチョコレートと原料は同じですが、コンチングの時間を長くして一般的なチョコレート同様になめらかな食感に仕上げています。レーズンのようなドライフルーツの風味と、ヘーゼルナッツのような風味が特長。原料を知らずに召し上がった方は、必ずと言っていいほど『フルーツが入っていると思った』と言われます」

 

 当初、昨年3月のAOCの締め切りに合わせてチョコレートをロンドンに送りましたが、コロナ禍によるロックダウンで受け取り先不在で戻ってきてしまいました。その後、9月末に審査再開の連絡がありましたが、10月下旬の提出期限まで準備期間も少なく、当時は国際スピード郵便(EMS)で日本からロンドンまで2週間以上かかる状況。いちかばちかで発送し、12月にウェブサイトで受賞を知りました。

cocomas cacao nibs chocolate Academy of Chocolate Awards 2020 Dark Bean to Bar Seasoned部門推賞枠入賞 「粗挽きのroughチョコレートをベースに、カカオニブ(カカオ豆を焙煎し、皮をはいで砕いたチョコレートの原料)をトッピングしたクランチタイプ。カカオ成分は約80%ですが、カカオニブの苦味がチョコレートの甘さを引き立て、食べやすくなっています。カカオの発酵の香りがダイレクトに感じられ、熟成した赤ワインのような味わいがあり、お酒にもよく合います」

cocomas Bean to Bar Mixed Nuts Chocolate「なめらかなsmoothチョコレート(カカオ73%)にアーモンド、カシューナッツ、くるみ、マカダミアナッツなど、無添加のナッツ数種類と、ドライクランベリーをトッピングしたボリューム感のあるチョコレート。ナッティでドライフルーツのような風味のベースチョコレートとナッツ類が良く合い、ワインなどアルコール類との相性もピッタリ」

 

 今回の受賞で、やっとスタート地点に立てたという感じです。2019年の創業時、1年目はまず地元の方に知っていただきながら様子を見て、2年目から積極的にプロモーションをしようと計画していました。まさに2年目のスタートのタイミングでコロナ禍のため予定していたイベントなどが相次いで中止になり、cocomasという名前とチョコレートを知ってもらう機会がなくなってしまい・・・・・・。オンライン販売に力を入れようにも、無名で味のわからないメーカーのチョコレートを買っていただくのは、ハードルが高い。そういう意味で受賞は一つの指針、そして大きな強みになると考えています。カカオの仕入れでお世話になっているミンダナオの農協に受賞を知らせると、農家の方も喜んでいると言われました。

 

チョコレートはカカオ豆の選別→ 洗浄→焙煎→皮むき→粉砕→精錬(コンチング)→エイジング→調温(テンパリング )→型取り(モールディング)→パッケージングの工程を経て作られる。「最も難しいのが調温。チョコレートを溶かした後、一定の温度帯まで上下させることで結晶構造を安定させ、つや良く口どけの良い仕上がりにします。温度計を見ながらの手作業です。繊細で温度や湿度に影響を受けるので、湿気や気温の変化が激しい日本では作業が大変です」

 

 

仕事を辞めて、思った。
「カカオを見に行こう」

 

 私は子どもの頃からチョコレートが大好きで、航空会社で働いていた時は世界各地のチョコレート屋さんに行くのが楽しみでした。趣味としてチョコレート作りのワークショップや、短期のコースにも通いました。そして約10年前、ワインソムリエの勉強をしている時にチョコレートのワークショップがあり、1種類のカカオ豆で作られるシングルオリジンのチョコレートに出会ったのです。そのベネズエラ産とインドネシア産カカオのチョコレートは、カカオと砂糖しか使われていないのに、まるでオレンジやパッションフルーツのような味。感動しました。ワインのように、将来はチョコレートもカカオの産地や品種で分類される時代が来るのではと思い、シングルオリジンのチョコレートに惹(ひ)かれていきました。

 

 

 2016年に広告代理店を退職した時のこと。ふと、「チョコレートの原料、生のカカオを見たい」と思いました。カカオの産地は中南米やアフリカが有名ですが、アジアのカカオを調べると、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどが見つかりました。その中から英語で意思疎通ができることなどを考えてフィリピンに決め、16年から18年まで主要生産地のミンダナオ地方ダバオで暮らしました。

 

技術教育技能開発庁(TESDA)と米国の団体が開講したチョコレートセミナーで、ミンダナオの人たちとカカオの皮と実を分ける「ウィノアウィング」の作業。ザルを使って風を当て、比重の軽い皮を飛ばす。「フィリピンの魅力は『人』。ダバオは治安も良く、明るくてやさしい方ばかりでした。フィリピンは気候もよく、農作物も豊富で環境に恵まれています。もっと自分の国の魅力に目を向けて発展していってほしいと思います」

発酵後のカカオを天日干しする。「農協などでは乾燥台で干しますが、施設がない小規模の農家は道路脇などにシートを広げて、このように干しています。満遍なく乾燥するように、写真のように定期的にかき混ぜます」

 

生産地でカカオに魅了
チョコで農家支援を

 

 ミンダナオのカカオは、レモンやオレンジのような柑橘系フルーツやヘーゼルナッツのような風味があって酸味が高め。ココナツのフレーバーもあり、ミルクが入っていなくてもミルクチョコレートのようになることがあります。

ミンダナオのカカオ収穫期はメインクロップと呼ばれる毎年10月から12月を中心に、5月〜7月にも収穫される(サブクロップ)。「コロナ禍で昨年は生産地に行けませんでした。生産者とオンラインで会話をしていましたが、現地もロックダウンで通常の業務ができず、カカオの品質保持や原料確保に苦労しました」

 

 ダバオでカカオについて調べるにつれ、その品質のすばらしさに魅了されました。その一方、販路や生産者の貧困などの問題も見えてきました。在住中には戒厳令が発令され、行動制限のため産地に行けない時期もありました。

 

 ミンダナオ産カカオの良さをもっと多くの人に知ってもらって販路をつくり、適正価格で生産者と取り引きする。農家により良い環境でより良いカカオを作ってもらい、消費者に品質の良いチョコレートを届ける。このような社会貢献につながるチョコレート作りをしようと、帰国後にcocomasを設立しました。

 

実はカカオは・・・・・・
食べて驚くチョコレート

 

 ミンダナオの現地で買い付け、発酵、乾燥したカカオ豆を輸入し、店の工房でチョコレートを作っています。基本的にcocomasのチョコレートは、フィリピン産カカオと砂糖のみを使用しています。砂糖は種子島産のきび砂糖をベースに、カカオ豆の個性がしっかり感じられるよう独自にミックスしたもの。カカオそのものの風味を最大限に楽しんでいただけるよう、焙煎(ばいせん)や砂糖の配分に気を配って作ったフルーティーなチョコレートなのが特徴です。カカオ含有量の高いハイカカオのチョコレートは一般的に苦いと思われていますが、焙煎を浅めにして苦味を抑え、食べやすくしています。中にはザラザラとした食感のチョコレートもあり、普通のチョコレートとの違いに「衝撃を受けた」というお客様もいらっしゃいます。

型取り(モールディング)の作業。このあと冷蔵庫に入れて固める。増田さんは、日本とフィリピンで短期のコースなどを受講したことはあるが、チョコレート作りはほぼ独学という。クラフトチョコレートの工房が多い米国では、全くの異業種からチョコレートに魅せられた人たちが起業することが多い。

 

 カカオはフルーツです。知らない方も多いと思うので、cocomasのチョコレートを食べて知り、実感していただけたらうれしい。カカオは近年スーパーフードとして体に良いと注目されているので、チョコレートを楽しみながら健康になっていただけたらと思います。

cocomasのチョコレートには、日本の伝統的な吉祥文様をミンダナオの美しい海のイメージを組み合わせた青海波のデザインが施され、包装には和の雰囲気を取り入れている。「青海波には未来永劫へと続く幸せと、平安な暮らしへの願いが込められています。ミンダナオの平和とともに、cocomasのチョコレートを手にされた方に小さな幸せを感じてほしいという思いを込めました。主力製品のrough73%の包装は青、黄色、赤(水引)のフィリピン国旗の色を使っています」。

 

 カカオ豆からチョコレートとして販売できるようになるまでには、最短でも1カ月かかります。現在は、私1人で店を回しているので、1日10枚から20枚ほどしか生産できません。卸売りのご要望もいただくのですが、今は手一杯なので生産効率の向上をめざしています。また、年間約600〜1千キログラムのカカオを輸入していますが、もっとカカオの買取、輸入量を増やしたい。そのためにも、今後はカカオ生豆の販売やチョコレートの卸売り、BtoBにも対応していきたいと考えています。また、フィリピン産カカオのポテンシャルをもっと広く知ってもらうためにも、カカオの知識を深め、チョコレート作りの技術向上を目標に、日々研究していきます。

 

ここます cocomas chocolate & cafe
所在地:埼玉県草加市氷川町709
電話:(+81)-48-954-4641
ウェブサイト/ オンラインショップ : http://cocomas-chocolate.com
 Facebook : www.facebook.com/cocomaschocolate/