▶ [食事]

フィリピンの人たちはスプーンとフォークを使って実に器用に食事をする。ナイフは使わない。スペイン時代にスペイン人が原住民にナイフ使用を禁じたためとも言われるが、きっとスプーンが実用的で「切ってすくう」のにいちばん使いやすかったからであろう。日本人のようにうどんのスープや味噌汁を丼に口をつけてズルズルと音を立てて吸うのは、フィリピンでは犬もしないような下品なマナーだったらしいが、最近では日本食の人気で、フィリピンの人たちもこれを真似するようになった。しかし基本は、スプーンで音を立てずに汁をすするのがフィリピンの正しいマナーのようだ。
逆に日本人がフィリピンでびっくりするのが「手で食べる」作法である。フィリピン語で「カマヤン」という。ご飯にシニガンスープなどの汁を掛けて人差し指から小指までの4本の指にご飯を載せて親指で押し出すように口に運ぶ。これはなかなかむずかしくて真似ができない。これができたらかなりのフィリピン通。きっと日本人が寿司やおむすびを指でつかんで食べるのと同じく、指で食感(触感)を楽しんでいるのであろう。エストラダやラモスなど歴代の大統領も庶民性をアピールするために率先してカマヤンのパフォーマンスを行った。
フィリピンのもう一つの食事のマナーは、「みんなで楽しく食べる」ことである。日本人なら一人がおかず3品、これに対してフィリピンならおかず山盛りの一品に対して3人がシェア、というスタイルが多い。会社のランチなどでも、数人がテーブルを囲んで、おかずをおいしそうに食べているのをよく見かける。この「シェアする」というのは、あいさつ代わりに「クマイン・カ・ナ(ご飯食べたの?)」というフィリピン文化のソフトな部分に通じているのかもしれない。

 ▶ [年配者と女性への敬意]

若者が目上の人と会った時には手の甲を目上の人のおでこの方向へかかげ「マノポ(お手を)」と敬意を表す光景をよく見かける。フィリピンはこのように年配者は敬われ大切に扱われる。そのことは「フィリピノ・ホスピタリティ」と呼ばれ、日本人の退職者がフィリピンに来る一つのきっかけにもなっている。フィリピンでは父母や祖父母の老後は若い人たちが責任をもって面倒を看るのが普通で、日本のように施設に預けることはしない。各自治体では60歳を過ぎた男女には「シルバーカード」が支給されて、飲食店の割引などの特恵が保証されている。
もう一つフィリピンで顕著なのは女性の社会的地位の高さである。会社でもマネージャークラスが女性でメッセンジャー(使いっ走り)が男性というくらい女性の社会進出は顕著である。満員電車でも目の前に女性や年配者がいたら席を譲って当たり前。女性も当然のような顔をしている。フィリピンは「かかあ殿下」の国なのだ。

 ▶ [教会に行ってみよう]

フィリピンはアジアで最大のカトリック国。国民のほとんどがキリスト教徒でまめに教会に行って祈りを捧げる。どんな田舎町にも教会があり守護神がいて、毎年、それらに感謝する祭り(フィエスタ)が開かれている。フィリピンでは日常の生活と宗教は密接につながっている。ジプニーやタクシーのドライバーも教会の前を通り過ぎる時にはかならず胸の前で十字を切り、無事故を神に祈り感謝する。子どもからお年寄りまで神と奇跡を信じ、教会のキリストや聖母マリア像の前でひれ伏して、ただ祈る。非キリスト教徒である大部分の日本人には理解しがたいが、フィリピンを真にわかろうとしたら、きっと教会で祈るフィリピン人の姿を見ればいい。多少とも「フィリピン」に近づけるにちがいない。