首都圏パサイ市のJ. W. ジョクノ・ブルバード(J.W. Diokno Blvd.)沿いの広場に、1日中行列が途切れることがない24時間営業のディワタ・パレス・オーバーロードがある。行列に並んでまで食べたいと思わせるのは夜食メニューとして人気のパレス。マニラでは見たことがない列の長さに何度もあきらめていたのだが、ついに意を決して行ってきた。
テントが点在する店
立ち食いパレス
3月中旬の金曜日、夜8時過ぎ。グラブで向かうとやはり長~~~い列ができていた。引き返したくなる気持ちを抑えて並ぶ。スナックを売る屋台の誘惑にも負けず、腹をすかしてただひたすら並んで待つ。最後尾だった私の後ろには、またたく間に列が続いた。
これまでも食べ物のために並んだことはある。思い出すのは、約25年前の東京・池袋の大勝軒のラーメン、そして2016年にミシュラン星を獲得したシンガポールのホーカー料理2軒。当時世界で最も安いミシュラン料理を求めて2時間半並んだ。そのうちの1軒が、今ホーカー・チャン(Hawker Chan)としてフィリピンでも展開している。
今回も2時間から3時間並ぶことを覚悟していた。時間をつぶすのに改めてスマホのありがたさがわかる。しかし、意外にも列に並んでいるとどんどん前進し、はるか遠くにあったディワタのテントが見えてきた。そして並び始めてから思ったよりもずっと早く、1時間10分で注文をすることができた。
ディワタに店の建物はなく、テントが点在し、その中にテーブルが置かれている。これも一種のテラス席といえるかもしれない。そして基本、立ち食いである。ゆえに回転が速く、行列の待ち時間の短縮に貢献しているのだろう。
パレスだけじゃない
常連客のおすすめメニュー
パレスは100ペソ。これにライスとスープ食べ放題、ペプシコーラ、セブンアップ、マウンテンデューなどのソフトドリンクが1本含まれる。まずパレスの肉が入った器を受け取り、流れ作業方式でスープが注がれる。ご飯を盛ってもらったら、いよいよ実食。
ディワタのパレスは変わっている。普通のパレスは、刻んだ牛肉がトロっとしたスープに入っているが、ディワタでは牛肉の代わりに豚肉を揚げたレチョン・カワリが使われている。肉の食べ応えが楽しめて、カラッと揚がった衣付き豚肉が濃厚なスープによく合う。食べて満たされた気持ちになる。そして、先に述べたようにライスとスープ食べ放題なので、パレスを食べた後にスープとライスを何度もおかわりする人も多い。
ディワタはパレスの店だが、常連客によるとブラロも絶品だという。一度、入店(入テント?)すると追加注文のために行列に戻る必要はないので、持ち帰りでブラロを注文した。このブラロも普通のブラロとは違う。キャベツやコーンなどの野菜は一切入っておらず、骨髄入りの太い骨もない。スライスされた骨付き牛肉はやわらかく、そのまま手に持ってかぶりついて食べる。牛肉の滋味が溶けているスープはこれだけで何杯もご飯が食べられそうだ。これまで食べたどのブラロよりも印象に残るブラロである。しかも160ぺソで、こちらもライスとスープが食べ放題だ。
苦労を知るオーナーの
パレスに込めた思い
本来のパレスとブラロを変化させて、それが多くのローカルの人々に受け入れられていることは特筆すべきことだが、ディワタの名物はこれだけでない。大人気ゆえに売り切れることが多いのが、フライドチキンなのだ。その名もシキン・ジョイ(Sikin Joy、120ペソ)。フィリピンが誇る某ファストフードチェーンのチキン・ジョイではなく、シキン・ジョイである。ラッキーなことに、筆者が行ったときシキン・ジョイはあったのだが、出来上がるまでに30分待った。チキンの大きなモモ肉は、しっかり味が染みて色が濃い。衣はサクッとクリスピーで中の肉はジューシー。理想のフライドチキンである。
ディワタは、豚肉のパレス、牛肉のブラロ、鶏肉のシキン・ジョイの味とボリュームで、1時間並んでも食べる価値があると思わせる。オーナーのディワタさんは、TikTokやYouTubeの番組でインタビューに答え、以前事件を起こして大きく報道されたこと、困窮して橋の下で暮らし、残飯を食べて生き延びた過去を告白している。そんなディワタさんだからこそ、良心的な価格で、腹いっぱい食べてほしいという思いをこめている。長い行列は、ディワタさんの真摯な思いが多くの人に伝わっている証拠だろう。肉が食べたくなったとき、時間に余裕があって、並ぶ体力と気力があるなら、ぜひディワタ・パレス・オーバーロードを訪れてみてほしい。(T)
(初出まにら新聞2024年3月30日号)