WHO(世界保健機関)によれば世界の殺人者トップ5(2023年)は1位:蚊(72万人)、2位:人間(殺人/ 42万人)、3位:人間(テロ/ 24万人)、4位:蛇(8万人)、5位:犬(6万人)となっています。今回は世界1、4、5位の殺人者である蚊、蛇、犬による経皮感染症についての最新情報を紹介します。

 

 

 

 

世界第1位の殺人者は蚊

 世界で約3億人が感染し、72万人(マラリアMalaria 60万人、デング熱Dengue Fever 10万人、ジカ熱Zika Fever 2万人)の死亡が報告されています。フィリピンでも蚊による感染症が大きな健康問題となっており、特に重要な感染症は次の3つです。


❶デング熱: 1月〜5月にヒトスジシマカ(写真上)に刺されて高熱、筋肉痛、発疹の症状が出る。毎年10〜20万人が感染。

 

デング熱の発疹 (Wikimedia Commons Public Domain United States Military )

 


❷マラリア: マラリア原虫を有する蚊ハマダラカに刺されて高熱、悪寒、関節痛、貧血の症状が出る。毎年6000人が感染。特に農村森林地帯に多く、死亡率が高いため早期に抗マラリア薬治療が必須です。

❸ジカ熱: ネッタイシマカに刺されて高熱、関節痛、発疹の症状が出る。毎年2万人ほどが感染。デング熱より軽症ですが、妊婦が感染すると先天奇形のリスクがあります。

 

刺されたらどうする?

 長袖、長ズボンを着用、蚊帳を使う、防虫スプレーを塗るといった予防が基本ですが、刺された場合は

①洗浄: 水と石鹸でよく洗う。

②冷却: 氷りなどで冷やすと腫れや痒みが軽減する。

③薬: 抗ヒスタミンの軟膏や飲み薬を使用。

④ むりやり掻かない。以上が原則です。

 最近では特殊な防虫繊維素材の服(スコーロン、モスキーヒ)も開発されています。フィリピンの薬局やコンビニに行ってモスキート・リペレント(mosquito repellent) といえば、蚊よけローション「OFF」、蚊取り線香、蚊取りマット、ブレスレット、シールタイプの蚊よけ用品を買えます。 ちなみにフィリピンではデング熱に感染したらマルンガイ茶(学名: Moringa oleifera 「奇跡の木」とも呼ばれ、栄養豊富で抗炎症や抗菌作用や免疫力増加作用で最近注目されています)を飲む習慣が伝統的に受け継がれ、やや苦い味と独特の香りが特徴で、伝統的な薬草療法として利用されています。

 

 

マルンガイの木とスーパーマーケットで買えるマルンガイ茶

 

 

最先端技術「蚊で無痛針」の研究?

 現在の世界最小の注射針の直径が0.6mm なのに対して、蚊の針は0.05mm。しかも6本の小さな針で構成されていて、まさに脅威の無痛針。世界の昆虫学者が、無痛針についての研究を進めていると言われています。

 

感染するとほぼ死亡する狂犬病

 フィリピンは狂犬病(Rabies)の発症国世界第10位(約1000人感染、約200人死亡)。狂犬病は、犬、猫、コウモリなどにかまれ、ウイルス感染で発症します。日本では2020年にフィリピンから帰国した1名の感染者が報告されています。 かまれてから約1〜3カ月の長い潜伏期間を経て発熱、頭痛、筋肉痛などが発症します。ウイルスが脳に到達すると意識障害や呼吸障害を伴い、水が飲み込めない(恐水症)、冷たい風や空気で苦しくなる(恐風症)などを併発すると、死亡率が高くなります。

 

 

マニラの街を歩く野良犬(イメージ写真)
(Wikimedia Commons Public Domain Judgefloro)

 

 

かまれたらどうする?

 もし、野良犬や野良猫、コウモリにかまれたら直ちに次のような処置が必要です。
 ①すぐに石鹸と水で約15分洗う。
 ②アルコールやヨード剤で消毒する。
 ③すぐに医療機関でワクチンや狂犬病免疫グロブリン投与を急ぐ。
 最近では、ペットの犬猫からも感染しますので、ペットの予防接種はしっかりしておくことが必要です(医者として、私はペットとの同居生活は危険でおすすめできません)。狂犬病は感染するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。

 

フィリピンでも毎年毒蛇の被害者が

 冒頭に書いたように、世界の殺人者第4位は蛇です。世界には毒蛇にかまれて亡くなる人が年間8〜10万人、負傷者数は約540万人。そのうち約半分の250万人が蛇毒の被害者で、手足の切断や永久的な障害者となる人が40万人にも達しています。
 フィリピンではフィリピンコブラ、キングコブラ、サマールコブラなどに毎年約1000人がかまれ、250人の死亡者が報告されています。特に被害を受けやすいのは、農業従事者や子どもたちです。

 

蛇にかまれたらどうする?

 もし蛇にかまれたら、次のような処置をしましょう。
①アクセサリーなどを外して、まずかまれた場所をきれいな水でよく洗う。
②かまれた場所を心臓より低くして安静にし、歩かせない。
③毒を吸ったり、強く縛ったり、氷で冷やしたりしない。
④添木で固定して、早く医療機関で抗毒素処置を受ける。

 

ビサヤやミンダナオ地方に生息するサマール・コブラ(Samar Cobra / Naja samarensis)
(Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0 Harold van der Ploeg)

 

 

 これらの処置をすることが基本となりますが、なによりも蛇がいそうな場所には行かないようにしましょう。
 次回は、人との接触による感染症(性病など)について解説します。

 

 

伊藤実喜 Dr. Miyoshi Ito
医師・医学博士 
東京上野マイホームクリニック院長。STCメディカル国際クリニック(マニラ市マラテ)理事。デ・オカンポ医大(De Ocampo Memorial College) 客員教授。1951年福岡県小郡市生まれ。福岡大学医学部大学院博士課程修了。レイテ島での医療ボランティアをきっかけに、フィリピン各地の貧困地区や刑務所などで「ドクターマジック」として手品ショーを取り入れた医療奉仕活動を行っている。1993年第60回奇術世界大会(カナダ・バンクーバー)優勝。
所属学会:日本臨床内科医会、日本糖尿病学会(生活指導医)、日本再生医療学会(厚労省再生医療第2種取得医)、日本温泉学会(温泉療法専門医)、日本旅行医学会(認定医)、日本性機能学会、日本奇術協会(芸名 Dr. Magic)、NPO日本フィリピン夢の架け橋代表