フィリピンでさまざまなクラフトビールが雨後のたけのこ、百花繚乱のごとく現れている。そんな中で、フィリピンのチャンピオン・ブリュワリーの称号を得たのが、エリアス・ウィキッド・エールズ&スピリッツだ。
2月、アラバンに開店
なぜ、エリアスがクラフトビールのフィリピン・チャンピオンと呼ばれるのか。それは、アジア・ブリュワーズ・ネットワーク(本部シンガポール)が主催するクラフトビールの品評会「アジア・ビール・チャンピオンシップ」で2022年、2023年にフィリピンのチャンピオン・ブリュワリーに選ばれたから。詳しくはアジア・ビール・チャンピオンシップのウェブサイトをご覧いただきたいが、レストランで言えば、ミシュランの星を取ったような快挙といえようか。クラフトビール好きの間では以前から知られた存在だったようで、実際に行ったことがある数名に聞くと「本物のビール好きが集まる。プルタン(Pulutan/酒のつまみ)もおいしい」「実はあまり教えたくないほど好きな店」という。
エリアスの本店は首都圏ケソン市のなかなかディープなロケーションにある。マカティから行くにはそれなりに気合が必要だ。すると幸いなことに2月上旬、首都圏モンテンルパ市アラバンに支店がオープンしたと聞いてさっそく行ってみた。
ショッピングモールの2階、広々とした店内にはカウンターとテーブル席、そして美しいレンガ造りの教会を望むテラス席がある。
カウンターの前にビールサーバー(タップ)がズラリと並ぶ。やはりビールはタップから注がれたばかりの新鮮なのがいいので、筆者はカウンター席に陣取ることにした。
日本で迷子、悪の帝王
記念すべき1杯目は、メニューにExtraordinaryと書かれているサマーブリーズ・セゾンを16オンスグラスでいただくことにした。セゾンはベルギー南部のビールで、農場でつくられたことからファームハウス・エールとも呼ばれる。このサマーブリーズ・セゾンは、アジア・ビール・チャンピオンシップのセゾンビールの部で640のエントリー中、見事金メダルを獲得した逸品。ちなみに銀メダルは日本のファーイースト・ブリューイング社の東京ホワイト、銅メダルは韓国のランチ・ブリューイング社のパリジャン・セゾンだった。
エリアスのサマーブリーズ・セゾンは、柑橘系やパイナップル、ピーチを思わせるフルーティーで飲みやすいビール。ほのかな酸味があり、軽快で爽やかでありながら、ズッシリとしたボディも感じさせてくれる。味わいとのど越しが絶妙なバランスで仕上がっている。
エリアスではそれぞれのクラフトビールに凝った名前が付けられていて、ドリンクリストを眺めるのも楽しい。ロスト・イン・ジャパンというユニークな名前は、フルーティーでまろやかな味わいの小麦ビール(白ビール)。日本で迷子になった経験からつくられたビールなのだろうか?
スタウト(黒ビール)の名前はダーカー・べイダー。ご存じ某SF超大作映画の全身黒づくめのキャラクターに由来する。香ばしい薫りが漂うきめ細かでクリーミーな泡とダークチョコレートを思わせる上品な甘さ。銀河の支配を目論む悪の帝王は、スタウト独特の強い苦味や酸味が苦手な人にも飲みやすく、飲み応えと深いコクを堪能できる思いやりのあるビールであった。だがアルコール度数は6.5%と高めなので飲みすぎには気を付けたい。
フードもチャンピオン級
エリアスはクラフトビールだけでなく、フードも凝っている。フィリピン料理、ナチョス、タコス、パスタ、ピザ、ハンバーガーなど、おひとり様からシェアまで種類が豊富。メニューにはペアリングにおすすめのビールが書いてある。例えば、プライドチキン(Pride Chicken)と名付けられたやわらかくジューシーなフライドチキンには、ロスト・イン・ジャパンがベストの組み合わせといった具合。シシグも普通のシシグとは違い、スモークされていていい薫りが食欲をそそる。クラフトビールの楽しみをいっそう引き立ててくれるフードメニューによって、ますます満足度も上がるというものだ。
今後も盛り上がり続けるであろうフィリピンのクラフトビールシーン。どんどん新しいブリュワリー、斬新なクラフトビールが登場するだろう。エリアスは今年もチャンピオンの座を防衛できるのか。フィリピンのクラフトビールの熾烈な戦いを、ビールを飲みながら見届けたいと思う。(T)
(初出まにら新聞2024年3月9日号)