みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 筆者は先日初めてマレーシアに行ってきました。マレー語はインドネシア語とほとんど同じだそうですが、言語としては異なるフィリピン語とも共通の語彙があり興味深く感じました。国境がなかった昔は、人々は舟に乗って自由に海を越え、お互いに交易もあったことでしょうから、共通の語彙があるのは当然ですが、調べてみるといろいろなことがわかりました。
マレー語由来のフィリピン語
1982年にラグナ州で発見された銅板(紀元900年)には、東南アジアでの交易には共通語としてマレー語が使用されていたことが刻まれています。そのころフィリピン諸語にも多くのマレー語が取り入れられました。たとえば「若い女性」を表すフィリピン語の “binibini”はマレー語の “bini”から、また「末っ子」を表す “bunso”はマレー語の “bongsu”から来ています。「ドア」はフィリピン語では “pinto”で、マレー語では “pintu”です。「右」を表す “kanan”もフィリピン語とマレー語の共通語彙です。
サンスクリット語由来
1世紀から7世紀ごろは、東南アジアがインドからの文明を積極的に取り入れた「東南アジアのインド化」の時代でした。そのため、マレー語やフィリピン諸語にはサンスクリット語が含まれています。「顔」を表すフィリピン語の “mukha”とマレー語の “muka”、「ニュース、報道」を表すフィリピン語の “balita”とマレー語の “berita”などはサンスクリット語からの借用語の例です。その他「先生」を示すフィリピン語の ”guro” とマレー語の “guru”、「国」を意味するフィリピン語の “bansa”とマレー語の “bangsa”などもサンスクリット語からの共通の語彙ですが、実はタガログ語に取り入れられたのは20世紀で、マレー語から人為的に借用され取り入れられたそうです。
アラビア・ペルシャ語
フィリピン語にはアラビア・ペルシャ語からの借用語は多くはありません。13~15世紀にかけて中東の人々がインド方面から東南アジアを訪れイスラム教を布教したため、アラビア由来の語彙はマレー半島経由でフィリピンに入ってきたようです。フィリピン語の「ありがとう」であるsalamatはペルシャ語やアラビア語で「健康」や「安全」を意味するsalamaやsalamatが語源と言われます。マレー語のあいさつのSelamat pagi!(おはようございます)も直訳すれば「平和な朝を」という意味で、このselamatも同じ言葉であることがわかります。この他、「酒」を表すalak(マレー語ではarak)、「皿」を表すpingganなどが共通の語彙です。なおマレー語では「高価な」という意味の言葉はmahalで、アラビア語のmahallが語源とされていますが、フィリピン語では同じ言葉が「高価な」つまり「価値がある」ことから「愛」という意味も持ちます。
植民地化と言語
1500年代にスペイン人がフィリピンを植民地化した際にはスペイン語からの借用語が増えました。そして後にアメリカ領になると、英語も話されるようになり、英語からの借用語も増えました。一方マレーシアはポルトガル領、オランダ領、さらに18世紀後半からはイギリス領となったため、ポルトガル語、そしてイギリス英語からの借用語が増えたのです。フィリピンではテイクアウトはtakeout ですが、マレーシアではtakeaway。エレベーターはフィリピンではelevatorと言い、マレーシアではliftと呼びます。このように言語にもそれぞれの国の歴史が色濃く反映されているのですね。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。