みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? フィリピン語には「私たち」を表す言葉が2つあります。聞き手(話し相手)を含まないkamiと聞き手を含むtayoです。
kamiとtayo
例えばAさんがBさんに “Nakapunta na kami sa Boracay.”(私たちはボラカイに行ったことがあります)と言ったとします。この場合kamiを使っているので、「私たち」に聞き手であるBさんは含まれていません。しかしAさんがBさんに “Nakapunta na tayo sa Boracay”と言ったなら、Bさんも含めた「私たち」がボラカイに行ったことがある、という意味です。
この聞き手を含む私たちであるtayoは「(一緒に)~しましょう」と誘う文脈でよく使われます。例えば “Kain tayo!” (食べましょう)は挨拶代わりにも使われるフレーズです。“Alis na tayo.” (もう出発しましょう)のように、動詞にtayoを付ければ、「~しましょう」という文を作ることができ、便利です。そして “Tayo na!” と言えば、それだけで「行きましょう」という意味になります。 “Tayo na” をさらに短くした“Tara!” や “Tara na!” のようなカジュアルな表現もあります。せっかく省略したのに、なぜか英語まで付けて長くした “Tara, let’s!” という表現まであります。
特殊な代名詞kita
さらに、フィリピン語にはkitaという特殊な代名詞があります。これは「私はあなたを」(または「私はあなたに」)という意味です。たとえば “Mahal kita.”(私はあなたを愛しています)はご存じの人が多いでしょう。kitaはko(私)とikaw(あなた)を組み合わせたものでko+ikawが出てくる文ではこれがkitaに置き換わるというルールがあります。文法的な説明は省きますが、本来 “Mahal ko ikaw” となるところが、ko+ikawがkitaに代わるので “Mahal kita” になるのです。他の動詞でも同様に “Tatawagan kita.” (私はあなたに電話をかけますよ)
“Tutulungan kita.” (手伝いますよ) “Sasampalin kita”(平手打ちするわよ)のように “ko+ikaw” の代わりにkitaを使います。
2017年には 『Kita Kita』 というフィリピン映画が北海道で撮影されました。このタイトルは「見る」という意味の “kita” と「私はあなたを」を意味する “kita” から成り、「私はあなたを見る」という意味です。動詞のkitaには「見る」と「会う」両方の意味があり、フィリピン語で 「また会いましょう!」というときは “Kita-kita tayo!” と言うことがあります。ハイフンでつながれたkita-kitaは動詞の「会う」の方のkitaが繰り返されており、 “tayo”は前述の聞き手を含む「私たち」です。映画『Kita Kita』のタイトルは、このkita-kitaも意識しているのでしょう。北海道が舞台なので日本語の「北」もかけているのかもしれません。
フィリピンのその他の言語では
フィリピン語はタガログ語を元に作られていますが、実はその他のフィリピンの諸言語にも“kita” という代名詞が存在し、これは聞き手を含む「私たち」、つまりフィリピン語のtayoに相当します。また、これらの言語にも「私はあなたを」を表すkitaに相当する言葉があります。例えばヒリガイノン(イロンゴ語)やビコラーノ(ビコール語)、カパンパンガン(パンパンガ語)等のフィリピンの諸言語では “ko+ikaw”に相当する言葉を“taka”や”ta ka”または “da ka”で表します。ただしこれらの言語でも “ko”と “ikaw” に相当する語がそのまま使われるのではなく、それぞれ変形して “taka” や “da ka”として使われている、つまり特別な扱いをされているのは興味深いことです。よく考えてみれば 「私はあなたを」の“kita”が使われるのは、愛情表現であれ怒りの表現であれ、非常に個人的な気持ちを込めた場面が多いからなのでしょうか。皆さんも機会があれば、どんな場面でフィリピン人がkitaを使っているか、ぜひ観察してみてくださいね。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大(現大阪大外国語学部)フィリピン語科卒。最近の楽しみは出張をより快適にするアイテムを集めること。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia