みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 前号では、最近「マリテス」等の女性の名前を「噂すること」や「噂好き」という意味で使うのが流行っていると書きましたが、ほかにも新しい流行語やその変化形が続々と生まれてきています。
Sana all「あやかりたい!」の変化形
例えば、2021年1月号のこのコラムで書いた “Sana all”(サーナ・オール=「みんなそうだったらいいのに」「あやかりたい」)は最近さらに変化しています。Sana allは、例えば「Aさんは宝くじに当たったらしいよ」「サーナ・オール!(私たちもあやかりたい!)」のように使う表現です。これが“sana ol”としてSNSなどで使われるようになり、最近では“Naol!(ナオル!)”と言うそうです。こうなると、もうほぼ原形をとどめておらず、一見同じ言葉だとはわかりません。言葉は簡略化され、使いやすいものが残る傾向がありますが、これもその例と言えそうです。
Dasurv「ふさわしい!」
“Dasurv”(ダサーブ)は英語の“deserve”(~に値する。〜にふさわしい。報われて当然である)を変形させた言葉です。英語のdeserveは、例えばアイドルグループの曲が音楽配信プラットフォームSpotifyでチャート入りしたりトレンド入りしたりといった時に “They deserve it”「(そのヒットに)ふさわしい」「(努力に見合った)当然の結果だ」と使う言葉ですが、そのdeserveを、フィリピンの発音傾向(訛り)を強調した上で綴りも変えたのが、このdasurvです。自分の「推し」アイドルが賞をもらった時など、ファンがSNSに “Dasurv!”とか “Super dasurv!” (むちゃくちゃふさわしい!)と書いて応援投稿しています。英語表現がフィリピン語の綴り・発音になったことで、ちょっとお茶目な感じも醸し出していますね。
Sakalam「強い」
Sakalam(サカラム)はmalakas(マラカス=「強い」)の綴りをそのまま逆転させた表現、倒語です。Malakasは、体や物が強いことや、影響力や印象が強いことを意味し、sakalamと逆転させても意味は変わりません。例えば“Sakalam ang Team A!”(チームAは本当に強い)のように使ったり、Gigi de Lana(ジジ・デ・ラナ)の歌う “Sakalam”という曲では“Sakit ay sakalam”(心の痛みが『強い(サカラム)』)と使っていますが、元の言葉と同じ意味なのに、より強い、より今っぽい印象を生み出しています。「すごい」とか「さすが!」というような感嘆にも使えます。
このコラムでも2017年の流行語の例としてidol(アイドル)を逆転させたlodi(ロディ)やmalupit(「厳しい」から転じて「すごい」の意味)の前後を入れ替えたpetmaluを紹介しました。イスコ・モレノ前マニラ市長が “Mayor”(市長)の前後を倒置させて自らを“Yorme”(ヨールメ)と呼ばせていたことを覚えている方も多いでしょう。仲間内だけで通じる隠語として使われるだけでなく、前後を逆転させたり、sakalamのように真逆にしたりすることで言葉遊びのような印象を生み出しています。もともと知っている言葉だと知った時に、新鮮な驚きがあると思います。
Yarn「それそれ!」
Yarnと言えば、普通は英語の毛糸のことかと思いそうですが、実はこのyarnはフィリピン語の指示代名詞 “iyan”が“yan”になり、それにrが加わって“yarn”になったもので、意味は「それ!」。期待していた通りのことが起こり「そうだよ、それそれ~!」という感じの反応をしたい時にSNSなどで使われる表現です。数年前には同じような意味で “ganoon”(そういうふう)を “ganern”と表現するのが流行りましたが、同じ傾向の言葉の変化です。
日本でも若い人たちの使う言葉がどんどん新しくなり、年配の人はついていけないと感じることがあります。フィリピンでも同様に、言葉を簡略化したり、逆転させたり、部分的に変えたり、組み合わせたりして日々言葉が変化しており、その変化もSNSなどの影響でどんどん加速しています。誰もが日常で多用する言葉だからこそ、より使いやすく、斬新な印象を与える形に変化しているのは興味深いですね。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia