みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? フィリピン語でお金は「ペラ(pera)」と言います。旧スペイン領だからスペイン語由来だろうと思った人もいるでしょう。しかしスペイン語のお金はdinero(ディネーロ)です。なぜフィリピンではperaになったのでしょうか。
これにはいくつかの説があり、一つはマレー語で「銀」を示すperak(フィリピン語ではpilak)から変化したという説。もう一つはスペイン女王イサベル2世が「メス犬(perra)」とあだ名されていたので、その横顔が刻印された硬貨がperraと呼ばれたという説。またイサベル2世の退任後、ライオンの横顔を入れた硬貨が発行され、それが犬に見えたのでperraと呼ばれたという説。さらに、旧スペイン領でお金を表す俗語として、現在でもまれにperraが使われているという話もあり、昔使われていた表現がフィリピンでは正式にお金を示す言葉として残った可能性もありそうです。
あの記号の由来も?
さて、フィリピンの通貨は「ペソ(Peso)」。フィリピン語では「ピソ(Piso)」と表記されます。元々は旧スペイン領の22カ国で「ペソ」が使われていました。その後、多くの国で通貨の名称が変更されて、現在「ペソ」を使う国は、フィリピンのほか、メキシコやアルゼンチンなど9カ国になっています。本来「ペソ」とは「重さ」のことでした。スペインは1500年代に南米の銀山から手に入れた銀を用いて銀貨を大量に鋳造しました。これが「ペソ」です。
「ペソ」は、当時流通していたスペインのレアル銀貨の約8倍の重さがあったので、世界中で貿易に用いられる国際通貨になりました。映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」やスティーブンソンの「宝島」にも出てくる「ピース・オブ・エイト(piece of eight)」が、このペソ銀貨です。米国のドル硬貨も、このペソ銀貨を基準に作られました。スペインの硬貨には片面に2本の柱が描かれていてスペイン・ドルとも呼ばれたため、Sに縦2本線を描いた$記号となったとも言われます。
スペイン語ではペソより少額の硬貨にはセンティモ(Centimo)、またはセンタボ(Centavo)という単位が使われます。これは「100分の1」という意味です。つまり1センティモが1/100ペソです。 フィリピンの場合は、フィリピン語表記がセンティモ(Sentimo)で、英語表記がセンタボ(Centavo)と決められています。実は旧スペイン領の国でどちらも使っているのは、フィリピンだけ。ちなみにフィリピンの貨幣には国語としてのフィリピン語のみで表記され、100ペソはSandaang Piso、25センタボは25 Sentimoと表記されています。
通貨事情にもフィリピン文化が
フィリピンでは割と頻繁に紙幣や硬貨が刷新されます。日本では古い貨幣は徐々に回収され新しい貨幣を少しずつ流通させるので、誰かのたんすで数十年眠っていたお金の価値がなくなることはなく、銀行で両替することも可能。しかしフィリピンでは、1980~90年代にかけて発行された古い紙幣の刷新が2009年に決定され、市場での利用は2015年まで、銀行での両替も2016年までと発表されました。そして2017年には紙幣としての価値を失いました。つまり、後から誰かがクローゼットに貯めていたお金を見つけても、ただの紙切れというわけです。
硬貨も何度もデザインが変更され、2018年にはそれまで黄色く大きかった5ペソが1ペソに似た銀色に変更されました。これではジープの中など薄暗い場所では見分けられないと不満の声が続出し、翌年2019年には9角形の5ペソが発行されました。波型のエッジも付いていて、触っただけで違いがわかるように工夫されています。現在、3種類の5ペソ硬貨が流通していることになります。思いついたら即実行する割に、不満が出るとすぐ変わるのもフィリピンらしいところ。多様性を認める文化であると同時に、柔軟性がないと適応できない文化だということを、こんなところでも感じます。
文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。
Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia