みなさん、こんにちは。Kumusta kayo? 先日ある方から質問がありました。「フィリピンの人が英語と一緒にnaとかpaとかpoとよく言いますが、どういう意味ですか?」

 

 naやpaやpoは「小辞」と呼ばれる副詞の1種です。このコラムでも以前取り上げたことがありますが、小辞は1~2音節程度の短い副詞で、使うことで様々なニュアンスを加えることができます。フィリピン人は英語の表現にもこれらの小辞を付けることが多いので、みなさんも “Thank you po!” “OK na!” などの表現を聞いたことがあると思います。

 

 

 

poとho

 

 poとhoは敬意を表す表現で、poの方がhoよりも敬意の度合いが強く、目上の人や年配者、よく知らない相手に対して使います。敬意を表すpoやhoは元来タガログ語以外のフィリピン諸語にはなく、他の地方ではあまり使われません。マニラ周辺では、親が子どもに親や目上の人にはpoを付けて話すようにしつけます。

 

 

naとpa

 

 一般的にnaは「もう/既に」、paは「まだ」と訳されます。例えば “Gutom na ako.” (もう空腹だ)、 “Gutom pa ako.”(まだ空腹だ)などは「もう」と「まだ」と訳せてわかりやすいですね。 “Kain ka pa.”と言ったら、「まだ食べなさい」ひいては「もっと食べなさい」という意味ということは推測しやすいですし、 “OK na”も「もういいよ」つまり「これでいいよ」という意味だとわかります。

 

 しかし、必ずしもいつも「もう」が最適とは限りません。例えば “How are you na?/Kumusta ka na?”と言われた場合はどうでしょうか。もしnaが「もう」や「既に」という意味なら 「もう元気か?」「既に元気か?」という意味になりそうですね。相手の体調が悪かったという前提があるならそれで良いのですが、そうではない場合のnaには「(前回会ってから今回会うまでの間)どうしていましたか」という「時間の流れ」や現在に至って「会う」という行為が完了したという「完了」の意味が含まれていると思われます。つまり英語なら “How have you been?”と現在完了になるところを、”How are you”に “na”を加えることで、それと同様、時間の流れや完了を示すことができます。

 

 

 さらにnaやpaなど、小辞が加わるだけで、人と人との心理的距離感がぐっと近くなる効果もあります。いつも小辞を使ってニュアンスを加える習慣があるフィリピン人にとっては、ただ “Thank you.”と言うだけではぶっきらぼうな感じがするところ、 “po”を加えるだけで丁寧さや親密さが増す感覚があるのです。つまり小辞はコミュニケーションの潤滑油なのです。

 

 

lang

 

 langもまた、そのような小辞の一つです。日本語では「~だけ」「~のみ」と訳されますが、実はその意味には幅があります。例えば、値段を聞いた時、”1,000 pesos lang” と言われたら、「たったの1,000ペソ」という意味になり、 “1,000 pesos na lang” なら「(以前はそれ以上の値段だったが今は)1,000ペソでいいよ」という意味です。na langは “Pwedeng 1,000 pesos na lang?” 「1,000ペソでもいい?」と値切る時にも使えます。さらに “OK” と “OK lang”なら、langが付くと「大丈夫」または「まあOK」というニュアンスになります。

 

 このように意味の揺れが生じる理由は、一つの言語と別の言語の間で言葉と言葉が1対1で対応するとは限らないからです。一つの言葉の意味にはある程度幅があり、一緒に使う言葉や用法により意味が変わることがあります。それらの微妙な違いを発見するのも新しい言葉を習得する醍醐味の一つです。

 

 

 

 

文:デセンブラーナ悦子 日英・タガログ語通訳。大阪外大フィリピン語学科卒。在学中にフィリピン大学に交換留学。フィリピン人男性と1992年に結婚後マニラ在住。

Twitter:フィリピン語ミニ講座@FilipinoTrivia